壊れるほどに愛さないで
「自分ん()帰れよな、何時になるか分かんないし」

「じゃあ、一回帰ってシャワー浴びてから、遅めの時間狙ってくるね」

クルッと回れ右して、背中を見せると桃葉は、片手を振りながら、いそいそと玄関扉から出て行った。

「ったく……」

見れば、まだ床に置き去りになっている壁掛け時計は、8時を回っている。

「やべっ」

俺は、クリーニングから戻ってきたままのビニール袋を被ったスーツを取り出し、姿見で紺のネクタイを締めると、カードホルダーを首から下げて、玄関扉を閉めた。

外は11月だというのに、寒さは感じない。

「マジで暖冬だな」

今日のニュースでは、昼にかけて温度が20度超えるらしい。

俺は、明日からの本格的な勤務に備えて、今日は、営業でまわる得意先の場所を把握しておくつもりだ。

製薬会社の営業マンは、病院回りをする際、患者様に配慮をして、営業車を近隣のパーキングに停めてからドクターの元へと向かう。ドクターとの面談は、勿論外来が終わってからの夕方から夜にかけて行われる事が多く、他社の製薬会社の営業マンと時間的にバッティングする事も多々ある。必然的に近隣パーキングは、同業他社の営業車同士で、取り合いになることも珍しくない。

俺は、出来るだけ、スムーズに止めれるパーキングを探しておきたいのと、得意先周辺の交通事情や地図も頭に叩き込んでおきたかった。

「さて、行きますか」

俺は、スマホの待ち受けになっている白いコスモスを眺めてから、営業車のエンジンをかけた。

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