壊れるほどに愛さないで
『じゃあ、僕はこれで』

「待てよ」

『何?』

「……朝、美織から妊娠してるかもって聞いた。美織は……妊娠してたのか?」

橘友也からの返事が一呼吸遅れる。その()で、俺は返事を聞かなくても理解する。

『……君に僕らの子供の事を教える必要はない』

(僕らの、子供か)

「悪いけど、俺の子の可能性もあるから」

『間違いなく、僕の子だ。美織からも聞いてない?』

「やけに自信満々だけど俺、美織抱いた時、避妊しなかったから。美織が妊娠してるなら一度美織と話させてもらう」

『ふざけるな!美織は僕の婚約者だ!さっきプロポーズもして指輪も受け取ってもらった。犯人を特定して、このことが落ち着けば、美織は退職して家に入ってもらうことになってる。そうなったら君も美織に二度と近づくな!以上だ!』

「おいっ!待てよ!…………ちっ」

話中音が聞こえてきて、俺は顔を顰めた。

「……子供か……」

美織は妊娠していた。そして、いまの橘友也の話ぶりだと、美織が階段から突き落とされたと聞いた時は生きた心地がしなかったがお腹の子供も無事だったという事だ。

「マジで……良かった……」

俺は、大きな溜息を腹の底から吐き出すとスマホの中の美織とコスモスの写真を浮かべる。

「美織……」

今頃どうしてるだろうか?傷の具合もこの目で確かめたい。子供のことも話し合いたい。

「会ってくれるかな……」

今日は東都大学付属病院の医師とのアポイントはない。それでも俺は、やっぱり美織に会いたい。断られたとしても拒まれたとしても。

俺は指先で美織にメッセージを送ると、営業車のハンドルを握りしめた。
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