壊れるほどに愛さないで
「こんなとこで会うなんてね」

黒のパーカーにデニム姿の男が、こちらにゆっくりも近づいてくる。   

「あれ?怪我してるの?大丈夫?」

私は、ゆっくりと後退りしていく。
鼓動は一気に早くなる。背格好、話し方、そして──赤髪。

分からなかった犯人の素顔が、男の赤髪を見た瞬間に重なる。彼が犯人だと脳の中から細胞達が一気に私に警鐘を鳴らす。


「……勇気さ、ん?……」

「あ、覚えててくれてたんだ?」 

「……その……髪の毛……」

私は震える指先で勇気の髪の毛を指差した。

「ん?髪の毛?あ、前会った時はタオル巻いてたからわかんなかったよね。俺、大学ん時から、赤髪トレードマークでさ。雪斗から聞いてない?……俺なんか興味ない?」

勇気が、短い前髪を指先でつまみながら、あははと笑った。

「……どうして、此処に?」

「あぁ、ちょっと親が体調崩してて、その……おお見舞いってやつ?」

勇気は肩をすくめると、私との距離を詰めてくる。

(お見舞いなんて嘘……また私を拉致しに……)

「こない、で……」

そうだ。昨晩襲われた時、勇気の焼き鳥店は体調不良の張り紙がしてあり休業日だった。それに雪斗と焼き鳥屋に行ったとき、勇気について雪斗が話していた事を思い出す。

──前田勇気は写真サークルの27期生だ。イニシャルはM。


「え?何?何?そんな泣きそう顔しないでよー」
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