壊れるほどに愛さないで
「私は……私は貴方を選んだりしない!美野里さんだって……美野里さんだって雪斗が好きだった!美野里さんも私も貴方のしたことを絶対許さないからっ!」

あっという間だった。三橋が立ち上がった思ったと同時にパンッと乾いた音が教会に響き渡る。私はじんと痛む頬に歯を食いしばると三橋を睨み上げた。

「何、その瞳?美野里とおんなじ瞳しないでくれるかな?」

三橋はポケットから無機質な銀色のそれをとりだすと、先端を私の顎に向けられた。

「切れ味試しちゃおうかな。久しぶりに」

「……や……やめて……」

(赤ちゃんが……)

身体がつま先から髪の毛の先まで震えて、呼吸が苦しくなる。

「はぁっ……はっ……来ないでっ」 

ドクドクと心臓に血液が流れ込んできて呼吸は駆け足になる。

「まずはさ、その子は堕ろしてもらう。雪斗の子供?院長の息子の子供?どちらにしても他の男の子供を産むなんてゆるさない。子供が欲しいなら取り出したら、すぐに俺の子を孕ませてあげるから。美織、家族になろう」

三橋は、形の良い唇を三日月に模すと持っているナイフを私の顎先から腹部へとなぞるように下げていく。その瞳に迷いはない。

「お、お願いっ……やめてっ。なんでもするからっ、赤ちゃんだけは……お願いっ……」 

(もうすぐ、解けそう……はやく……はやくっ……)

手首が摩擦で燃えるように熱く痛い。

「安心して、取り出したらすぐに止血してあげるからね」

ゆっくりと、ナイフを持った手が引かれて勢いよく私の腹部へと突き立てられた。


────やめてっ!
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