壊れるほどに愛さないで
ポタポタと床に水滴が落ちるような音がする。

「はぁっ……はっ……良か……た」

その声に、ぎゅっと瞑っていた瞳を開ければ、真っ赤に染まった友也が、ゆっくりと崩れ落ちた。

「えー、あれ?どっから入ってきたの?てゆうか何で此処が分かったんだろ?」

三橋が血のついたナイフをペロリと舐めた。

「はぁ……美織に……触るな……」

友也は、床に転がった身体を私の両足を掴みながら這い上がり、再び私を守るように覆いかぶさった。

「友也っ、友也っ……ひっく……」

私の身体は友也の血液で一気に熱く赤く染まっていく。友也の足元を見れば、すでに血溜まりができていて、それはどんどん大きくなっていく。

「あー成程ね。此処についてからすぐに美織のスマホの電源切ったけど、あんた美織にGPSつけてたんだな」

三橋は、ナイフの先端をくるくる回しながら、天井を向いて笑った。

「ははは、ストーカーかよっ、そんなんだから、美織に疑われんだよ、ばぁか」

三橋はゆっくりとナイフを持ち直すと、にやりと笑った。

「悪いけど美織は渡さない。あんたには死んでもらうね」

「僕の……命なん……どうでも……い……美織……逃げて」

「友也っ……はぁっ……しっかり、して……死な、ないで……はっ……三橋さんっ、もう……やめて……」

「美織、推理小説に出てくる犯人がいつだって名探偵に秘密を暴かれて負けるとでも思ってる?推理小説の中には、犯人が勝つラストって沢山あるんだよ……俺みたいにね」


──三橋がにこりと微笑みナイフを振り上げる。

私はようやく拘束が解けた両手で友也を抱き締めると、思い切り椅子ごと横に倒れ込んだ。

それと同時に、教会の扉が大きく開かれ、いくつもの足音が教会の中に響き渡る。

「美織っ! 」

「ゆ……きと」

雪斗の声と共に数人の警察官がなだれ込んできて、すぐに三橋を取り囲んだ。

「三橋昇!拉致監禁及び殺人未遂容疑で逮捕する!」 

カチャリと響いた手錠の音と暴れて騒ぐ三橋の声を最後に、私は血まみれの友也を抱きしめたまま意識を手放した。
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