十年前の約束
 私の知らないところで彼女が苦しみ、既に亡くなっていたという事実がかなりショックだった。肩の重みがズシ、と右足にも移った。

 知らず知らずのうちに右足を引きずって歩いていた。

 差していた紺色の日傘を支えるのが面倒で、畳んで杖代わりに地面を突いて歩いた。

 ぼんやりと覚束ない意識の中でおばさんの声がはっきりと響いた。

 ーー「もう五年ほどしか生きられないって医者から余命宣告を受けたの」

 真帆ちゃんは自分の余命を知っていたのだろうか。

 ーー「春香ちゃんの言うことなんて聞かなければ良かったって……泣いていたわ。そうしたら死ぬこともなかったのにって」

 おばさんのあの口ぶりを思い出すと、知っていたんじゃないかと思った。

 でも。

 そうだとしたら、変だ。

 妙な違和感を覚えてしまう。

 ーー『また十年後、大人になったら会おうよ』

 ーー『会いに来てね、絶対だよ?』

 引っ越しの間際、そう言ってお守りをくれた彼女は、十年も生きられないことを分かった上であの約束を口にした。

 お守りに入れた手紙の文章だってそうだ。

 病気のことを知っていて、自分の命を延ばすためにああ書いたのだとしたら……。
< 11 / 13 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop