内緒の双子を見つけた御曹司は、純真ママを愛し尽くして離さない
ビニールのかかったビジネススーツを手にした三十代前半に見える青年が出てきて、果歩たちと男の間に割って入った。

「俺の妻子になんの用?」

(えっ、知らない人だけど……?)

戸惑いは一瞬だけで、助けようとして言ってくれたのだと気づいた。

夫を名乗る者が現れた途端に、自転車の男が弱腰になる。

「注意してやっただけだよ。通れなかったからさ……」

「店内まで聞こえたけど、それだけじゃないよな。若い母親ならどうだと言うんだ。俺の前で、もう一度言ってみて」

「い、いや、別に大した話じゃないし……」

「通れなかったから注意したと言ったけど、そもそもここは歩道だ。自転車は車道の端を走る決まりだろ。歩行者をどけるのにベルを鳴らすのも違反。俺の妻子に謝ってくれる?」

非は自転車の男の側にあると言ってもらえて果歩の溜飲は下がったが、安心してはいられない。

自分よりかなり若い男に謝罪を求められたのが屈辱だったのか、自転車の男が拳を振り上げた。

「若造が偉そうに。もういっぺん言ってみろ!」

果歩は咄嗟に双子を抱えるように守り、助けてくれた彼が殴られる予感に慌てた。

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