陰黒のプシュケ

二層変体

だが、穂里恵の意識は、まだこの異様空間に呑み込まれてはいなかった。
それはかろうじて…。

ここまでを推し量れた今、混沌と混乱に引っ掻き回されながらも中3の少女は、その反面作用たるこの状況から抜け出す方策を探り当てようとする意思も闘志も確固として枯れ果ててはいなかった。
そして…、そこから派生しうるエネルギーは、限りなく絶望色を醸す闇の中、一筋の光を力強く放っていたと…。

***

他方、彼女を直撃した事態の経過も、確実に秒刻みの進捗を現出させていた。

この時すでに、最初に分離した2層の闇空間は、ぼんやりとした初期段階から次のステージに移行し、後背面で浮遊する闇が4つのカオと一体であろう4つのカラダを浮かび上がらせたのだ。

”4人は私に同じ苦しみを与えようとしている…‼理由はわからないけど…”

この期に及び、穂里恵はそんな確信に至っていた。
そして、それがもたらすであろう想像図はまさに恐怖の一点に尽きた。

”こいつら…、私の手か足、いずれかを奪うつもり⁉”

彼女が心の奥で囁いたこの推測は、おぞましき4体の訪問者に読み取られていた。

闇の前方で忌まわしく浮遊するカオらは、穂里恵の予期と呼応するかのように、口らしき部分を顎が外れるくらいの膨張幅までゆっくりと上下左右にくねらせながら、あ~~(+濁点)の合唱を更にテンションアップさせ、スーッと、後背面の闇へと溶け込むように限りなく透明のカタマリにと変異していった。

***

同時に、後ろからどっと吹き出た浮遊胴体部4体を宿した陰黒の闇間には、不規則な微動を繰り返しながら、無音でコールタールのようなおびただしい血が空間を舐め回すように迫ってゆく。

”来るー‼私からは左足を引きちぎるつもりだー‼やめてー‼”

もはや穂里恵と闇の鼓動との間には、無言で互いの発信を行き来させることができてしまったのだろう。

かくて、彼女の確信をくみ取った2層分離を経た後方の闇は、血まみれの胴体4パーツを内包させ、動けないターゲットの横たわる寝床(?)を鷲づかみするに至ると、ついに穂里恵は後背を形成していた闇の手中へ呑み込まれてしまう…。





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