陰黒のプシュケ

陰黒の闇を裂いたもの

”あ~~…、あ~~…(+濁点)”

一方、4体の中の一体も、よどんだ呻き声を吐きながら、闇の中に連れ込んだ穂里恵のカラダへと突進していた。
そしてほどなく、”接触”の域へ到達する…。

”ぎゃ~~‼血が私の左足に落ちてるー!溶ける!腐らされる‼ダメー、ゼッタイ、ヤダー‼”

それはもはや淘汰の戦いと言えた。
時間が解決すると思われる、今の壮絶な光景…。

金縛り状態で逃げることも、なんの攻撃、迎撃手段さえ持たない哀れな末路を待つだけであろう少女の必死で夢中な心の抵抗…。

その抵抗は秒を跨ぎ続いていた。
絶望の最中でも…。

穂里恵はこの状況下、あらん限りのパワーでその思いに集中させていた。
得体の知れぬ怪空間で、日常の中で発する感情を失わせず…、それはある意味、奇跡と言えたのかもしれない。

底なしの恐怖心に呑み込まれがらも、純朴かつ強固な意思は、この邪悪な闇空間に押し消される寸前でしぶとく希望の灯りを死守していたのだ。
実際は虫の息ではあっても…。

***

時間の葬られた陰なる闇の体内は、そのごくわずかなくすぶりも、邪なる波動を乱す周波と感じ取っている…。
穂里恵の魂から発せられた無垢な心底からの波動は、その理不尽な闇の侵食に微々たるエネルギーとは言え、抗体としてはばかっていたのかもしれない。

それを感じてか、左足を捥がれた闇の中の胴体は、腐った漆黒の血を湧き流しながら、穂里恵の左足へ抱き着く様に覆いかぶさった。

”あ~~、ああ~~”

”ミュルミュルミュル…”

陰黒の闇に展開しているその絵柄は、蛭が人間の生き血を吸っているシルエットに直結した。

”やだー‼ダメ―‼バカヤローー‼”

おそらく穂里恵の心深くでは、”もうダメだ”が本音であっただろう。
だが、そんなホンネなどなんか”クソだ!”…。
彼女の芯なるキモチはそう徹底できていたようだった。

***

そんなギリギリの抵抗が、闇の中でかたひらな”何か”を産み落としたのか⁉
一進一退…。

そう…、厳密にはわずかの時の狭間で、風前の灯火だった穂里恵のカラダは生身の人間の意志という微粒子のバリアによって死霊(?)の魔手を拒んでいたのだ。

かくして…、穂里恵を包み込んでいた闇間には再び変異が起こる…。
それは、”バリバリバリ…”という、何か固いモノが軋み、歪むような物理音だった。

”ああ~~‼あああ~~‼”

ここで死霊はオンナらしき一体から、再び4体が出揃う。
それはまるで、穂里恵の左足を奪おうとするオンナの苦戦へ仲間が助太刀に参上したかのようなビジュアルであった。

”バリバリバリ…”

現世での日常音に近いその音の到来は、失意に屈服する寸前だった穂里恵にとっては、反射的に闇を突破する音感に捉えることもできた。

既に極限の緊張感で体中が動かないにもかかわらず、ジンジンとしびれ、のどがカラカラになりながら、穂里恵は更なる抗いを心の中で力強く唱え続ける。

”ああ~~~‼あ~~~‼”

”バリバリバリ…、ガシャーン!!”

それは静寂の中の凄まじい衝突音だった。
直後…、闇の中の攻防は、二つの音がぶつかって驚愕の変転を披露すことになる…。






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