愛されてはいけないのに、冷徹社長の溺愛で秘密のベビーごと娶られました
「別れたくない。これからはもっと大切にするから。愛理を愛しているんだ」

 プライドとか体面を気にする余裕はない。彼女を繋ぎ止めるためならなんでもする。しかし俺が目にしたのは、愛理の瞳からこぼれる大粒の涙だった。初めて見る彼女の泣き顔に息を呑む。

「ごめんね。本当にごめん。今までありがとう」

 頭を下げて、俺の前から走り去る愛理を今はそれ以上、引き止められなかった。

 なぜ? いつから? 俺のなにが悪かった?

 おそらく今日の件だけが原因じゃない。ここ最近、愛理はずっと様子がおかしかった。

『けどな、過去ばかり見て執着していたら、今目の前にあるものを取りこぼすぞ』

 ああ、こういうことだったんだ。

 もっと愛理と突きつめて話をするべきだった。愛理の抱えているものに向き合うべきだったんだ。彼女はいつだって真正面からぶつかってきたのに、俺ははぐらかす一方で、どこかで愛理との関係にあぐらをかいていた。

『私はただ……目が覚めたときに紘人がいなくて驚いて……』

 寂しそうな表情をしていた彼女を思い出す。あのときは些細なことだと気に留めなかった。

『一緒にいて……ほしい』

 俺も同じ気持ちだった。でも、そう言った愛理の望みを俺はちゃんと叶えてやっていたのか?

『私は前を向いて変えられない過去を嘆くより、今や未来を大事にしていきたい』

 愛理の言葉が今になって突き刺さる。俺が一番大事にしないといけないのは、したかったのは愛理自身だったのに。
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