少女達の青春群像           ~舞、その愛~
「ムッチー、またトリップしてる!」

 響歌に肩を揺さぶられて現実に戻される。

「まったくもう、こうしょっ中、空想世界に入られると困るのよ。まぁ、空想くらいはしてもいいんだけどさ。せめてニヤニヤ笑いながらは止めてよね。不気味で仕方がないのよ。そんな姿をいつか川崎君に見られて幻滅されても、私は知らないからね」

 川崎という言葉で、ニヤニヤしていた舞の顔が一瞬で引き締まった。

 そんな姿、絶対にテツヤ君には見せられない。恋する乙女は可憐でいないとダメなのよ!

「あの、響ちゃん、お願いがあります」

「突然、何よ?」

「テツヤ君がいる時にトリップしたらぶん殴って下さい」

「はぁ?」

「テツヤ君の前では可憐な乙女でいたいのです」

「わかったから、その変な敬語はすぐ止めて」

 響歌は渋々了承した。これまでのつき合いから、承諾するまでうるさそうだとわかっていたからだ。

「ありがとう、響ちゃん。さっすが私の大親友様。これでテツヤ君の前でも安心できるわ」

「そうね、安心かもね。でも、本気で可憐な乙女になりたいのなら、少しは歩ちゃんを見習った方がいいわよ。歩ちゃんこそ可憐な乙女の代表でしょう?」

「確かにそうだよね。歩ちゃんこそ可憐な乙女という言葉が似合っているよね。歩ちゃんにウルウルした目で見つめられたら、いくら年上の男性だからっていってもイチコロだよ。うん、歩ちゃんなら話しかけなくても大丈夫。いずれ向こうから告白してくれるから。あっ、私、明日から歩ちゃんに弟子入りしようかな。歩ちゃんって、それ以外にも勘は鋭いし、頭の回転は速いし、友達想いだもの。本当に凄いよ。うん、決めた。私、歩教の信者になる!」

 響歌は歩の名前を出したことをかなり後悔した。

「歩教だか何教だか知らないけど、歩ちゃんにつきまとって迷惑をかけないようにね」

「そんなの、わかっているって!」

 舞は素直に応じたが、響歌の心の中の不安が取り除かれることは無かった。
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