少女達の青春群像           ~舞、その愛~
 響歌はこれまでにあった出来事を一気に話すとようやくミルクティーに口をつけた。

 それでも歩の方はまだジュースを飲む気にはなれないようだ。とても興奮していた。

「すっごーい、暴露大会はあの後も続行していたんだ。でも、橋本君と川崎君の好きな人って、誰なんだろう。それに中葉君の好きな人が、まさか松村さんだったなんて。今はどうなんだろう。できればムッチーを好きになって欲しいよね」

「本当にそうなって欲しいわよ。それにしたって、さっきのムッチーは本当に見物だったよ。なんたってあの男子が近くにいると必ず石像化するムッチーが、気軽に、しかも楽しそうに中葉君と話しているんだもの。中葉君の方も楽しそうだったしさ。だから身の置き所がなくてここまで逃げてきたのよ」

「私も見てみたーい。でも、今は我慢しなきゃ、だね。それでも響ちゃんが逃げた理由って、それだけじゃないんでしょ。だって今日も中葉君だけだったもんね。橋本君、いつになったら響ちゃんのところに来てくれるんだろうね」

 歩が響歌に笑いかけると、響歌は脱力した。

「歩ちゃんさぁ、何か誤解をしているみたいだけど、あくまでも私が好きなのは黒崎君であって…」

「橋本君ではない!って、言いたいんでしょ。そんなのわかっているって。響ちゃんの心の中は愛しの黒崎君で占められているもんね。それなのに中葉君との仲を疑われていたなんて。あぁ、なんて可哀想な響ちゃんなんでしょう!」

「本当にそうだわ。今の私の心の中はブリザード状態よ。案の定、黒崎君に誤解されていたんだから。一刻も早くその誤解を解かないと、心だけでなくて身体まで凍ってしまうわ。そうよ、私には橋本君と川崎君の好きな人なんて関係ないのよ。ムッチー風に言うのなら、一番気になっているのは私と黒崎君の恋の結末よ」

「響ちゃんからしたらそうなんだろうね。でもね、黒崎君のことも大事だけど、周囲にいる男の子達のことも少しは考えてあげて欲しいな」

「…は?」

「だって私達、まだ1年なんだよ。焦らなくてもいいじゃない。せっかく響ちゃんには話しかけてくれる男の子達がいるんだから。私からしたら凄く贅沢な話だよ。私にはそんな経験なんて無いし、男の人とつき合ったことも無いんだから」

 歩は本当に羨ましそうだったので、響歌は驚いた。

「そんな、私からすれば歩ちゃんの方が羨ましいよ。小さくて可愛らしいし、男性からすれば必ず守ってあげたいって思うようなタイプだもの。私とは全然違うよ。私なんて、からかって面白がられるだけなんだから。以前つき合っていた彼氏とだってそんな感じだったしね。可愛がられるよりかはからかわれる時間の方が多かったよ。今から思うと、好きだからつき合ったというよりは面白かったからつき合ってくれたんだよ。まぁ、あいつの本心は完全にはわからないけどさ」

「そんなことないよ。絶対にそんなことない。それだったら2年間もつき合うわけがないもん。しかも遠距離だったんでしょ。面白いからといった理由だけでつき合える時間と距離じゃないよ!」

「………」

 響歌は歩のあまりの勢いに圧倒されている。

「信じてあげようよ。せめて一緒に過ごした2年間は彼のことを信じてあげて。そりゃ、何が原因で別れたのかは詳しくはわからないけど。でも、信じてあげないと元彼が可哀想だし、響ちゃん自身がもっと可哀想だよ!」

 歩は必死で響歌に訴えていた。

 初めて見る歩の姿に、響歌は感動してしまった。

「歩ちゃんって、本当にいい子だよね。私の為に怒ってくれているんだもの。ちょっと感極まったよ。ありがとう」

 響歌にお礼を言われた歩は、我に返ると先程の自分の言動を思い出して恥ずかしさのあまり顔が熱くなった。

「…そんなこと、ないよ」

 真っ赤な顔になっている歩は本当に可愛い。
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