少女達の青春群像           ~舞、その愛~
 教室から逃げ出した響歌は、1階の渡り廊下にある自販機でミルクティーを買った。

 教室には当分戻らない方がいいだろう。

 …なんかお邪魔そうだし。

 自販機で買ったミルクティーを手に、どこか落ち着ける場所がないかと周辺を見渡す。

 真冬だというのに中庭の3 on 3専用コートでは普通科の男子が騒ぎながらプレイしている。それを見ているだけでも楽しそうだ。

 すぐ近くにあるベンチにも人がいない。天気もいいし、あそこで時間を潰そうかな。

 響歌はそう決めると、中庭に向かおうとした。

「響ちゃん」

 突然名前を呼ばれ、軽く肩を叩かれた。

 驚きながら振り向くと、すぐ後ろに歩がいた。

「あれ、歩ちゃんじゃない。こんな時間にこんなところで会うなんて珍しいね。今日もさっちゃん達と一緒に4時の電車で帰ったと思っていたよ」

「さっきまで委員会があったんだよ。ほら、私、5組の体育委員だから。響ちゃんこそ1人でここにいるなんて珍しいね。放課後はいつも中葉君と橋本君に捕まっているのに。あっ、でも、橋本君は最近来なくなったけど…」

 歩は最後、言いにくそうに声のボリュームを落とした。

「それについては気にしなくてもいいよ。橋本君が私らのところに来ない理由はわかっているから。ちなみに今、教室では中葉君とムッチーが楽しくお話しているはずよ。歩ちゃんも教室に戻るのならもう少し時間を遅らせてから行った方がいいわ」

 歩の両目が輝いた。

「えっー、それ、どういうこと。橋本君と何があったの。それにムッチーと中葉君って。2人にしておいて大丈夫なの。ムッチー、石像さんになっていない?」

「取り敢えず、あのベンチに座ろうか」

 響歌が促すと、歩はすぐに頷いた。

 中庭にあるベンチに行き、そこに並んで腰を下ろす。2人の手にはジュースがあるが、お互いまだ口にする気にはなれなかった。
 ジュースを飲むよりも、まずは話したい。

 2人の思いは一致していた。
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