少女達の青春群像           ~舞、その愛~
 舞は4人を前にして深々とお辞儀をした。

「皆様、今日は私の為にわざわざお集まりいただき、ありがとうございます」

 響歌達は呆れたように舞を見ていた。

「わざわざお集まり頂きって言われても…今はお弁当の時間だから当たり前なんだけど」

 真子が恐る恐る言った。

「私達に何か話でもあるの?」

 響歌はそう訊きながらも、関心が無さそうにお茶を飲んでいる。

 そんな響歌の隣で、紗智もお弁当を広げて食べ始めた。

 だが、歩は真子と同様に人がいいのか、手を止めて舞を見ていた。

「もう、響ちゃんも、さっちゃんも。2人を見習ってよ。私がせっかく重大発表をしようとしているんだから。手を止めて、ちゃんと話を聞く。人の話はきちんと聞きましょうって、保育園でも習ったでしょ!」

 舞は顔を真っ赤にして怒っている。

「気が進まないだろうけど、今はムッチーの言う通りにした方がいいよ。今日のムッチー、ちょっと変だから長引かせない方が…」

 真子が2人に向かって小声で言った。

 2人は不服だったが、確かに長引かせたくはない。渋々手を止める。

「まっちゃん、ありがとう。やっぱりまっちゃんは優しいね。では、これから優しいまっちゃんの為に重大発表をするね。実は私、今日から中葉君とめでたくもつき合うことになりました!」

 …は?

 4人全員が固まった。

「あんた、早速告白したの?」

 舞の気持ちを知っていた響歌が、一足早く覚醒して舞に訊ねた。

「違うわよ、響ちゃん。告白し合ったのよ!」

「それじゃ、よくわからないわよ」

「だから告白し合ったんだってば。まぁ、それは直接ではなくてメッセージでなんだけどね。私達ってば、メッセージを送るタイミングまで気が合ったみたいで、なんと同時にメッセージを送っていたの。しかもまたそれが、普通の文じゃなくて告白だったの!」

 要するに、同時に『好き』といったメッセージを互いに送ったわけ…か。

「中葉君のメッセージはそれでも質問系だったから、もう一度、中葉君に好きって送ったんだけどね。あれには本当に驚いたわよ。中葉君だって驚いていたんだから」

 舞はとても興奮していた。

 そういった経緯があるのなら、ムッチーがこんな状態になっても仕方がないか。 

 でも、これが続くと鬱陶しいわね。

 できれば今日だけにしてもらいたいわ。

 今日だけでも苦痛だよ。

 4人は互いに顔を合わせると、そういったことを目と目で会話した。

「でね、みんな。これを見てくれる?」

 舞が机の中から赤色の表紙のノートを出してきた。

 表紙に何か文字が書いてある。それを目にした途端、4人の動きが止まった。

「これはね、交換日記なの。『愛の交換日記』。これを今日からすることになっちゃったの。今朝、私の机の中に入っていたから授業中に読んでみたんだけどね。なんとこの『愛の交換日記』は二冊あって、もう片方は中葉君が持っているの」

 げっ、こんなのが二冊も!

 やはり一致している4人の思い。

「でね、毎日書いて、それを交換し合うの。普通は一冊なのに不思議な話でしょう?でもね、やっぱり一冊だけだと持てない日も出てくるわけじゃない。それだと淋しいんだって。中葉君ってば、毎日私を感じていたいらしいの。ハアッ、愛されるのも辛いものなのね」

 聞いている4人は、もっともっと辛かった。

「みんなよりも先に行ってしまってごめんね。みんなも早く幸せを掴んでね。中葉君と一緒に応援しているから」

 響歌が頭痛をしそうな頭を押さえた。

「結婚するわけじゃないんだし、もっと気楽に構えなさいよ。初めてのおつき合いで浮かれる気持ちもわかるけどさ」

 そうだった、私ってば、こんな時になんてことを!

「響ちゃん、ごめんなさい。私ったら、響ちゃんの気持ちをまったく考えていなかったよ。大丈夫、忘れているわけじゃないわ。響ちゃんの失恋パーティーはちゃんとやってあげるからね」

 舞は涙を浮かべながら響歌の両手を握りしめた。 何か話が大きくねじ曲がってしまっている…そう、響歌は感じた。
 しかも忘れたいことをよくも思い出させてくれたものだ。

「響ちゃん、失恋パーティーって、どういうこと?」

 歩が響歌の方に身を乗り出して訊いてきた。

 真子は言いにくそうにしている。

「もしかして響ちゃん、黒崎君に…あの…」

「失恋したの?」

 紗智が、真子が言えなかった続きを言った。

「実はそうなのよ。黒崎君ってば、悪い女に引っかかっちゃってさぁ!」

 舞は先程までの幸せそうな表情から一変して鬼のような形相になる。

 その形相のまま、響歌の代わりに今までのいきさつを勝手に話し始めたのだった。
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