大人の初恋
空っぽ
 夜になり就業のチャイムが鳴る。
帰ろうとすると、蓮さんに話しかけられた。
「ご飯一緒に食べに行かない?実は、この会社に入ると同時に引っ越しして、今、家の冷蔵庫空っぽなんだよね」
引っ越して間もない為、おそらく何処に店が有るか等(など)も分からないのだろう。
おば様達は皆結婚している為、家に帰って夕食の準備が有る。
一緒に食事をすることになった。
美紅を誘おうと思ったが、美紅は残業であった為、2人で行くこととなった。
ついでにオススメのスーパー等(など)も教えてあげよう。と思いながら私の車を会社に置き、蓮さんの車でお店に向かう。


 私が案内してあげたお店は、優しそうな夫婦が経営している食堂だ。量は多いのに値段は安い。そんな地域密着型の食堂だ。


 私はアジフライ定食を、蓮さんはしょうが焼き定食を頼む。
頼んだ物を雑談をしながら待っていると、別の3人組のお客さんが入ってきた。
「いらっしゃいませ」
と定員が言うのと同時に、入口の方を見る。
そこには元請けの人達がいた。
勿論、渚も一緒に。
白髪のおじ様が私に気づいたので軽く会釈をした。
向こうも会釈を返したが、勤務外だった為か、それ以上はお互い会話を交(か)わす事はなかった。
渚は相変わらずの無視だ。


 各々(おのおの)注文の品が到着した。
ご飯を食べながら蓮さんに質問された。
「あそこに居る元請の渚って人と何かあったんですか?やけに結奈さんに、素っ気ないと言うか、無愛想と言うか……」
「どうだろうね。何か都合悪い事でもあるんじゃない?」
あえて興味無さそうに話す。
「もしかしたら、俺と一緒に居たことに対して嫉妬してるのかも。渚って人結奈さんに気が有るんじゃないですか?」
「そんなはずは無いと思うよ。好きな子に冷たい態度をとるとか、小学生じゃないんだから」
「分かってないっすね。男は意外と幼稚な生き物っすよ。まぁ結奈さんが気づいてないなら、それで良いけど」
そんなものなのかと思いながら食べ進める。

 
 ご飯を食べ終りレジに向かう。会計をしようと思ったら
「会計はさっき、そのお兄さんがしてくれたよ」
と定員さんに言われた。
中々やるな。こんな事を自然に出来る。きっとモテるんだろうな、と思いながら「ありがとう」を伝える。


 駐車に行き改めて「ごちそうさま」を伝えていると……
いきなり後ろから手首を掴(つか)まれた。
渚だ。
そして一言、
「何で」
と呟く。
私が困惑していると、蓮さんが反対の手首を掴んで
「今は俺と、ご飯を食べに来たんです。」
と強めにいう。
すると渚の手は、掴んでいる手首を離した。
それと同時に蓮さんが、私を車の前まで連れていく。
そのまま助手席に乗ると、車のエンジンがかかり、その場を後にした。

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