王子様は拗らせお姫様の虜
「ねぇ、旅行行かない?」

実花子のエプロン姿を眺めながら、僕は、ダイニングテーブルに頬杖を着いた。

キッチンで、長ネギを切っていた実花子の手が一瞬で止まる。

「え?ちょっと千歳、いま一月だよっ」

「うん、それがどうかした?」

実花子の綺麗な切長の瞳が、きゅっと細くなる。

「一月って言ったら、正月明けで、千歳だって、キッチンの新規受注も多いし、不動産の賃貸契約だって馬鹿みたいに湧いてくるでしょ?!企画営業第一課は戦場でしょうが!課長が休んでどうすんのよ!ちなみに、私だって、毎日、社長と、専務と、颯の接待スケジュール及び、得意先との打ち合わせで、パンク寸前なのっ!」

(想定内だな……)

実花子だって、本当は、僕と旅行に行きたいことなんて百も承知している。

お互い、それなりに立場があって、抱えてる仕事も、人よりも多い。

かといって、溜まりに溜まってる有給を消化させずに消滅させてしまう位なら、僕は実花子と無理やり休みを取ってでも旅行に行きたかった。それに、実花子は、大事なことを仕事に追われてすっかり忘れてしまっている。 

(さてどうしようかな……)
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