ドS弁護士は甘い罠を張る。~病院で目覚めたら危険な男の婚約者になってました~

審議中

トレーナーにデニム。適当に突っかけた服装で、化粧もほぼしないまま、鞄に調査報告書と財布だけをつっこんで、文は電車に揺られていた。

七生は琴音の実家に向かっている。

それが合っているのか、合っていても間に合うかもわからない。
でも、電車の中で走り出したいほど気持が焦っていた。

座席に座ることも出来なくて、ドア間際で流れる景色を睨む。
目的の駅へ着くと、タクシーに乗った。

歩いても十分程度の住宅街であったが、それすらもどかしい。
芸能人が多く住むことで有名な高級住宅地だ。
緩い坂を上ってゆくと、入口が見えない程長く続く、和風の塀が出てきた。
木々が茂って敷地内まではよく見えないが、平屋のようだ。

琴音の家は代々政治家だと聞いているので、資産家なのだろう。

(こんな凄い家柄のお嬢さんなんだ)

比べるのもどうかと思うが、不安とともに自分なんてという思いが大きくなり、マンションをとびだした時の勢いはどんどん萎んでいた。

少し手前で下ろしてもらい、塀の中を見上げながら足を進めた。
途中途中に防犯カメラが設置されていて、なんとなく体を小さくする。
入口付近へたどり着くと、重厚な檜の門が出迎えた。

車の出入り用と、人の出入りで分けられている。古風な和風邸宅といえど、最新の設備だ。カメラに見下ろされ、電子キーが組み込まれている。

そう都合良く七生が居るわけがなかった。
チャイムを押す勇気もなくて、煮え切らない思いを抱えながらも頭を垂れる。

(こんな所まで来て、なにをやっているのだろう)

うろうろしていたら通報されそうだ。
早々に諦めて帰ることにした。
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