ドS弁護士は甘い罠を張る。~病院で目覚めたら危険な男の婚約者になってました~

示談


『何だあの説得は』

七生のスマートフォンからは、宝城の不満が届いた。ハンズフリーにして、テーブルに置きっぱなしとなっている。
文はソファで蜂蜜ミルクを飲みながら、大人しくそれを聞いていた。

七生の車で連れ戻され、マンションへ着いた頃には昼を過ぎていた。

「その後どうだった?」

七生はキッチンでコーヒーを入れながら会話をする。

『上手く行くわけないだろ。 “お父さんは七生君の言うことなら絶対聞くから” って琴音が言うから説得を頼んだのに』

「あのおやじさんが俺の言うことなんか聞くわけないだろ」

七生はコーヒーとフルーツを持ちながらソファに戻ってきて。
朝から何も食べていない文はお腹がなる。

「琴音とお前のためだからとりあえず一度は頼みを聞いたけど、ともかく、俺はもうお役御免だ。文が巻き込まれてまで世話は出来ないね。あとは自分たちでがんばってくれ」

『旭川さんが巻き込まれたのは、七生の信頼が足りなかったからだろ……だいたい、旭川さんの時、協力してやった恩を忘れていないだろうな』

文たちが去った後、あの屋敷でどんな舌戦が繰り広げられたのかは知らないが、大変だったのだろう。宝城はブツブツと文句が止まらない。

「恩があるんですか?」

自分の名前が出てきたのでこそっと聞いた。
七生は飲んでいたマグカップを置くと、文を見つめる。そのまま顔を近づけると、文の額に優しく唇を寄せた。
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