ドS弁護士は甘い罠を張る。~病院で目覚めたら危険な男の婚約者になってました~
「ここが寝室で、あっちがバスルーム……」
自宅のマンション内を丁寧に案内してくれる七生に、文は神妙に頷く。
間取りどころか、こんなタワーマンションに足を踏み入れたことも過去にあっただろうか。
共に暮らすこととなった家は、都心の一等地に構える高級マンションだ。
四八階という高所に目を回す。
ワンフロア四部屋に区切られているが、最上階のみ二部屋だけとなる。
七生の部屋は最上階。つまりとても広い。
住んでいたアパートから身の回りの荷物を持ってくると、ふたりの寝室だと言われる場所にそれを置いた。
グレーで統一されたシンプルな部屋。やはり見覚えはない。
さっぱりとまとまっているが高級感はあった。ひとつひとつの物が良いのだろう。ベッドが部屋の真ん中に鎮座している。ダブルより大きく見えるが、ひとつしかない。
(もしかして一緒に寝るの?!)
どうにか別の部屋を貰えないかと頭を悩ませた。
「なんども来たことがある……?」
まだ信じられない。
両親には心配させるからが秘密にしておくべきだと言われ、事実確認をしていない。
すぐに記憶が戻るかもしれないし、せめてもう少し様子を見てから報告しようということになった。
研究一筋だったため、社内に友人がいるわけでもないし、他に確かめる方法がない。
本当は関係各所に聞いて回りたいが、信じてませんと触れて回るようで気が引けて、どうにも動けない状況であった。
「結婚式とか……決まっていましたか?」
「いいや。でも籍を入れる話はしていたよ。文は研究室の新開発のプロジェクトがひと段落するまで待って欲しいと言っていて、終わったとたんに移動になっただろ。秘書課になれなくてばたついていたけれど、異動から二ケ月すぎたし、どうしようかと相談していたんだ」
というと、先日のパーティーのときには婚約していたことになる。
「そうですか……」
考えても考えてもわからないのが、記憶喪失というものなのかもしれない。