ドS弁護士は甘い罠を張る。~病院で目覚めたら危険な男の婚約者になってました~
(き、気持ち悪い……)

バルコニーに出てみたくて、わざわざ二階まで来てしまったのが運の尽きだった。
気を抜いてしまったことを悔いる。

階段へ差し掛かると、階段下に七生が見えた。ちょうど階段を上ろうとしていたのか、片足を一番目にかけている。

目が合った。
視線が絡むと七生は表情を鋭くした。

(ーーーー間宮さん助けて!)

声をだせずに、視線だけで訴える。

「旭川さん~もぉー待ってってば。照れてるの? 不慣れな感じもいいね。僕気に入っちゃった。ねぇ、ふたりにーー……」

「文!」

ヘラヘラとする賢の誘いを、階段下からの声が遮った。
大きな声ではないが、その場を制することができる鋭い声だった。

七生だ。
なんで突然名前で読んだのだとか、今日はずっと怒っていたのに、やっぱり助けてくれるんだ、結局優しいんだよな、などと考えが駆け巡る。

とにかくこの男から逃げなくてはならないと思い、文は階段を一段降りた。

「間宮さんだ。あの人あんま好きじゃないんだよね。ね、部屋に行こう」

賢の手が腰にまわる。

(いやっ!)

文は身を捩る。
頭を振ったせいか、その時眩暈が襲う。
視界が真っ暗になって体がぐらりと傾いた。

そして足元がおぼつかなくなり、ヒールがカーペットにひっかかった。ぐにっと足首が曲がる。

「きゃ……」

「あっ旭川さんっ……!」

賢が焦る。

「文!!」

七生が叫んだ。

七生が大きく手を広げる光景を最後に、文は気を失った。
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