ドS弁護士は甘い罠を張る。~病院で目覚めたら危険な男の婚約者になってました~

「どう? 変化あった?」

宝城は音を立てずにドアを閉めると、近寄ってきた。

「容態を確認するのは医者の仕事では?」

「七生がずっと付いていたから聞いただけだろ」

「見ての通り、まだ目を覚まさない」

七生は文に視線を戻す。

「一晩様子をみよう。検査結果は問題なかった。あとは目覚めたとき、記憶障害の有無の確認だな」

宝城は点滴を確認しながら言った。

「記憶障害? それって、記憶を失うってこと?」

「そんな大袈裟なものじゃない。
心配しているのは一過性のものだよ。ストレスとかで、目覚めたときに混乱するひとがいるから。大概すぐに治る」

「ふうん」

(記憶障害ね……)

考え込む七生に、宝城は補足する。

「深刻になる必要はないからな。念のためって話なだけだ」

「わかってるよ」

一通りの確認を終えると、また二時間後に巡回すると言い残して宝城は次の患者の元へ向かった。

(目覚めたら、俺を好きになっているとかあればいいのに)

雛鳥のような刷り込み現象でもいい。
依存して、離れられなくなった隙に堕としてしまえばいい。
妄想めいた考えに苦笑する。

「でも、そうだな……」

それぐらい強引でなければ、文と懇意になるのは難しいかもしれない。
七生はしばらく文を見つめながら思案する。
そして決意をして、文の手に指を絡めた。

「文、どうしても君が欲しい。多少強引だけど、許してくれるよな」

早く目覚めろと念じる。
思いついたとんでもない策略に、気分が高揚した。
勿怪の幸いとでも言おうか。

七生は病院にいる状況を悲観していなかった。
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