ドS弁護士は甘い罠を張る。~病院で目覚めたら危険な男の婚約者になってました~

これって、差し押さえですか?

退院後、吾妻から仕事を数日休むように言われている文は、特段用事もないため遅い時間に目覚めた。

すっかり日は昇っているが、ベッドの端にいる七生もまだすやすやと寝ている。
七生も一緒に休暇をとっていた。

自営業だから大丈夫だと言い張ってずっと家に居るが、本当は忙しいのでないだろうか。着信らしきバイブ音が定期的に聞こえてくる。

体のあちこちは確かに痛いが、体調も悪くないしひとりで大丈夫なのに、一緒にいると聞かないのだ。

七生は仕事が第一な印象があったので、怪我など自己責任でさっさと治せと言われるかと思ったのに、意外と過保護なのかも。

寝顔からは、いつもの冷徹さは伺えない。
スーツでビシッと決めた彼しかしらなかったので、まさかこれほど無防備な姿を見る機会が来るとは、夢にも思っていなかった。

そして文は、七生と同じベッドなんて絶対無理だと思っていたのに、恥じらいも緊張もなんのその。
多少の抵抗は最初だけで、極上の寝心地に初日からぐっすりだ。

ベッドを出てそろりと足を降ろす。
大理石の床はひやりとする。
スリッパを履かないと冷え性の文には耐えがたいものだ。
初日にそれ伝えたら、すぐにふわふわのスリッパを買ってくれた。
カーディガンを羽織り、用意されたスリッパを履くと物音を立てないようにキッチンへ移動した。

七生のマンションで暮らすようになって五日目。
キッチンは不慣れだし、まだ物の場所も覚え切れていない。
自分の物など一切置いて無くて、本当にここに来たことがあるのだろうか。
恋人であったなら、歯ブラシくらい置いてあってもいいのに。

昨日は、そういった雑貨をすべて揃えるために一日中買い物だった。
あまり歩き回らないようにとデパート内だけであったが、七生はすべてのフロアの商品をすべて買い尽くすのではないかと思うほど、次から次へと選んでいった。
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