ドS弁護士は甘い罠を張る。~病院で目覚めたら危険な男の婚約者になってました~

告白? どちらかというと自白って感じです。

大山商事のパーティーから一カ月。
怪我もすっかり完治して、その後の賢の件も落ち着いてきたころ、季節は冬に差し掛かっていた。

相変わらず三宅と七生から毎日のように指導はあるのだが、秘書の仕事もなんとか板についてきた。

そして、私生活は七生のマンションに帰り、ふたりでの生活が当たり前になっている。
七生との時間は快適で、……それでいて幸せを感じた。

一緒に料理をしたり、買い物にでかけたりするのが楽しい。
たくさん愛されて、嫌な気持ちはしない。
だからこそ、文は兼ねてから考えていた事を七生に告げる決意をした。

“どうしても思い出せない”

その言葉を。

ジクジクとしたわだかまりが、ずっと消えない。申し訳ないという気持が、どんどん積もっていた。

七生を傷つけたくなくて不用意な言葉を控えていたが、そろそろちゃんと話し合うべきではないだろうか。
どうもしっくりこないのだ。

七生の部屋、しぐさ、すべてが初めてで、体が馴染まない。
記憶を失うということは、そういうことなのか。

例えば、自転車に乗っている記憶をなくしても体が乗り方を覚えていて乗れたり……そんな風に、はっとすることがあればいいのに。

話をして、少しひとりの時間を作るべきではと思った。

逆にアパートに帰り、元の生活をしてみたら新たな刺激となって思い出せるかも知れない。

週末の、就寝前。
いつもならふたりで映画を見たり、寛ぐ時間だ。

ふたりの夜の定番となっていた蜂蜜ミルクを飲んで、心を落ち着かせると切り出した。

「七生さん……わたしね、一度アパートに戻ろうと思うんです」

「ーーーーなんで?」

それまで笑顔だった七生の声のトーンが、すっと落ちた。
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