落ちこぼれ聖女ですが、王太子殿下のファーストキスは私がいただきます!【書籍化決定】
 リアナ嬢に対して後ろめたい気持ちがないと言えば嘘になる。しかしそれは、リアナ嬢やヘイズ侯爵家も同じだろう。

 改めて問われると、何と返事をすれば正解なのかが分からない。

 黙っている私に呆れたのか、リアナ嬢は「馬車をこれ以上待たせられないので」と言って私の腕を放した。馬車が見えなくなるまで見送って一度大きくため息をつくと、うしろからガイゼルの声がする。


「殿下。リアナ嬢の件、調べてきましたが」
「……どうだった?」
「ヘイズ侯爵家と同様に殿下の婚約者候補として挙がっているグラインド伯爵家とボールド公爵家からの聞き取りの結果です。グラインド伯爵令嬢が先日王都で暴漢にあって軽い怪我をしましたが、捕えた犯人の男とリアナ嬢と思しき女性が話をしているところを見たという目撃情報が多数あります」
「リアナ嬢が暴漢を雇って、ライバルであるグラインド伯爵令嬢を襲わせた……という風に見えるな」
「その通りです。ボールド公爵家についても、同じような件が発生しています」


 ここのところリアナ嬢に関する良くない噂が、国王陛下の元に寄せられることが増えた。リアナ嬢が私の婚約者の筆頭候補だと言われ始めてから、特に目立つようになった。

 初めはヘイズ侯爵家をやっかむ輩の謀略かと思っていたが、よく聞けば皆、リアナ嬢本人の姿を目撃していると言う。これでは、誰しもヘイズ侯爵家を疑うのは当然だ。


「殿下。こうして集めた情報をそのまま殿下にお伝えしていますが、俺自身はリアナ嬢がそんな悪事を働く方だとは思っていません」
「同感だ。しばらく疎遠だったとは言え、リアナ嬢は私ともガイゼルとも幼馴染という仲。いくら私の婚約者の座におさまりたいと望んでいたとしても、卑劣な手を使うようなご令嬢ではない……と思っている」


 再び空を覆い始めた雨雲に押されるように、私とガイゼルは二人並んで城に向かって歩き始める。


「今日、クローディアのことを穴が開きそうなほど睨んでましたけどね」
「リアナ嬢が? クローディアを?」
「そうですよ……彼女、よほど殿下に懸想してらっしゃるんでしょう。殿下の呪いを解くことだけを考えれば、悪いことではありません」
「しかし、クローディアに迷惑をかけるわけにかいかない。彼女はわざわざ王都まで出てきて、私を助けようとしてくれているんだ」
「クローディアは迷惑だなんて思っていないのでは? 何も考えてなさそうですし」


 雨が降るから早く城に入りましょう、と言って、ガイゼルは私の背中を押した。
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