落ちこぼれ聖女ですが、王太子殿下のファーストキスは私がいただきます!【書籍化決定】
 ローズマリー様のお名前を間違えたアーノルト殿下は、兜の中で申し訳なさそうな顔をしている……と、思う。少し頭を下げて謝った後、こちらを向いて私を呼び寄せた。


「ローズマリー嬢、覚えていらっしゃるでしょうか。こちらは元々こちらの神殿の聖女候補生だったクローディア嬢です」
「……クローディア! どうして貴女がここに? まさか殿下は……運命の相手としてクローディアを?!」


 神殿を去った昔の後輩が、突然王太子殿下と共に訪ねてきたのだ。ローズマリー様が驚くのは当然のこと。
 しかしローズマリー様の様子を見るに、どうやら私が殿下の運命の相手だということはバレてはいないようだ。とりあえず私はホッとして胸をなでおろした。


「ローズマリー様、お久しぶりです。私はアーノルト殿下の運命のお相手が誰なのか、恋占いでイングリスの神にお聞きしただけなんです。その繋がりで、今は殿下のお手伝いをさせて頂いています」
「……ああ、そうなのね。ディア、とりあえず元気そうで良かったわ。心配していたのよ。ところで殿下の運命のお相手が誰なのか、分かったのですか?」


 ローズマリー様は焦った様子で殿下に尋ねる。殿下の誕生日まで残り二週間と少し。ローズマリー様も心配で焦っていらっしゃったのだろう。
 殿下はそんなローズマリー様に向かって、これからのことを説明した。


「クローディア嬢に占ってもらった結果、私の運命の相手は、リアナ・ヘイズ侯爵令嬢だと分かったんだ。ちょうど彼女は私の婚約者候補として名前が挙がっていたので、このまま私からリアナ嬢に婚約を申し込もうと思う」
「そうですか、リアナが……」
「ただ、私とリアナ嬢は幼馴染とは言え、ここ数年はほとんど顔も合わせたことがなくてね。疎遠だった期間の埋め合わせをしようと努力しているところだ」
「アーノルト殿下、そんな悠長なことは言っていられませんよ!」


 穏やかな殿下とは対称的に、ローズマリー様は青ざめた顔をして慌てている。


「ディアは元・聖女候補生と言えど、イングリス神からの祝福の儀でまともなスキルを得られなかった身です。身内の恥を晒すのは本意ではありませんが、恋占いスキルの結果も全てが真実とは限りません。占いに頼るよりも、もっと確実な道を選ぶべきです」


 ローズマリー様の言葉がちくちくと私の心に引っかかる。
 しかし今は、私の恋占いスキルを「恥」だと言われたことにショックを受けている場合ではない。ローズマリー様は今、もっと大切なことを口にしたではないか。

 確実な道を選ぶべきだ、と。
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