少女達の青春群像     ~途切れなかった絆~
 黒崎が言っていた店は、響歌の予想通りのところだった。若者達が好む店で、この近辺の若者だったら大抵の人が知っている。

 だが、柏原市出身の黒崎も知っているとは思わなかった。ここから柏原市までは車でも1時間半くらいかかるのだから。

 それでも黒崎はこの辺りをドライブすることが好きで、以前からよく来ていた。同窓会の時にここまで来たのも、彼が提案したからだ。

 トマト系のパスタを2人でわけ合いながら近況報告をし合う。黒崎も最近振られたらしい。無謀にも、旦那持ちの人に果敢にアタックしていたようだ。もちろん響歌の方も、元彼との話を聞いてもらっていた。その人は黒崎も知っている人なので言いにくいかもしれないと思っていたが、実際はかなり愚痴っていた。

 そんな話をしていたら、あっという間に時間が過ぎていた。

 やはり黒崎と一緒にいると楽しい。元々、彼は社交的で人を楽しませる術を持っているが、それとは違う何かも感じてしまう。

 半年前に遊里と一緒に黒崎達が麻雀をしているところに乗り込んだ時、黒崎とは一言もしゃべらなかった。いや、彼が一言もその場でしゃべらなかった。その時は元カノである遊里も一緒だったせいかもしれないが、なんだか寂しい気分だった。

 だが、そんなものなのだろうとも思っていた。こうやって疎遠になっていくのか…と。

 その後で、遊里も『あの暗さはなんなのよ!』と怒っていた。麻雀の時は常に笑顔だった彼女も、黒崎の態度には思うところがあったのだ。とはいえあの時は、麻雀をしていた4人に対しても同じようなことを言っていたのだが。

「そういえばこの前、幸田(こうだ)君の家で麻雀していた時も面白かったよな」

 黒崎の口から、あの時のことが飛び出した。

 面白い…表情なんて、黒崎君はしていたっけ?

 響歌は返事に困ってしまった。

「特に遊里ちゃんが『ロン・チン・ポン!』と言った時は爆笑ものだった」

 まぁ、実際にその時は爆笑だったよね。笑顔満開で、大声でそんなことを叫んだんだもの。いくら酔っぱらっていたのだとしても、あれはないよ。

「あの時は酔っ払い2人組が失礼しました。本当は『ロン・チー・ポン』って言うんでしょ?」

「そう、『ロン・チー・ポン』と言うの。響歌ちゃんの方も熊田(くまだ)君に『ポン!』『そこでポン!』って言われていたのに『えぇっ!』『えぇぇっ!』『えぇっ!』とか言って理解できていなかったしさ。会社の人に教わったんじゃなかったの?」

 そう言えば、私にもそんなのがありました、はい。

 会社の人に麻雀を教わったから意気揚々と熊田君と代わったものの、蓋を開けてみるとあんなザマよ。まぁ、一応、熊田君に隣についていてもらってはいたんだけどね。

「教わりましたとも。でも、あの時は何故か忘れてしまっていたんですよ。えぇ、熊田君には申し訳ないことをしてしまいましたよ。あの時は酔っ払いの遊里ちゃんにも指をさされて大笑いされたしねぇ。でも、次があるのなら大丈夫。今度はできる!」

「本当に?」

「本当だって!」

 こんな会話をしていると、あの時はなんだったのかと思えてくる。

 絆はまだ切れていなかったということなのかしらね?

 まぁ、黒崎君はテンションが高い時と低い時の差が激しいからなぁ。あまり気にしない方がいいのかもしれない。

 これについては高校の時にも薄々感じていたことなのだが、卒業して再開してから確信した。

 彼はアップダウンの差がとても激しいのだ。電話でも、それがすぐにわかるくらいに。彼とつき合っていくうちに『機嫌が悪い時には話しかけない方がいい』ことを学んだ。

 普段は凄く気遣いができる人なのだが、その分、落差を感じるのかもしれない。

 そんなことを考えていると、黒崎がフと言った。

「響歌ちゃんって、なんか話しやすいな」

 …は?

「そうかな。いや、黒崎君はどんな人とでも楽しく話しているでしょ」

 むしろ苦手な人なんているのか!と問い詰めたいくらいだ。

 実際にそうしようとしたが、その直後、黒崎がかつて言っていたことを思い出した。

 高校の時、彼は宮内方面の女子が苦手だったらしい。理由を訊くと、話しかけてくれないから…と言っていた。

 そんなことを言われた響歌は、もちろん『私も宮内方面なんだけどね?』と突っ込んだ。それに対して、黒崎はすぐに『葉月さんは特別』とは返していたけれど。

 どうやら彼は、内向的な人があまり好きではないようだ。色々な女子に話しかけていて、奈央達には修学旅行で女たらしと言われていたが、実はそうでもない。黒崎なりにクラスメイトにコミュニケーションを取ろうとしていただけなのだ。

 例えば響歌達の井戸端会議の犠牲になっていた、宮城。彼女は高校の課題研究の時に黒崎と隣の席になり、黒崎によく話しかけられていた。その結果、彼女は黒崎に惚れてしまったのだが、黒崎の方はまったく気づいていない。黒崎からしたら、隣の席だから話していただけなのだ。

 本当の女たらしなら、自分に気があるとわかった時点で攻めていくだろう。そういった男は相手のそんな感情を見抜くのが鋭く、チャンスは絶対に逃さないものなのだから。

「そんなことはないって」

 まぁ、その言葉は本当なんだろうね。

「でも、まぁ、ありがとね、そんなことを言ってくれて」

「そういえば響歌ちゃんって、政治家の田口素美(たぐちもとみ)に雰囲気が似ているな」

「はぁ!」

 前言撤回だ。

 私はあの頭が固そうな、めっちゃきついおばさんに似ているのかい!

「ちょっ、待った、オレ、田口素美って結構好きだから!」

 そんなフォローは、フォローになっていないぞ!

 とまぁ、こんなことも言われたりはしたが、久し振りでも黒崎は変わっていなかったので、響歌は安心した。

 元彼のことも色々愚痴ってすっきりしたのもあって、黒崎とこの日に会って良かったと思えた。

 その日から響歌と黒崎はたまに電話をしたり、会ったりするようになった。
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