少女達の青春群像     ~途切れなかった絆~
 日本では24日は恋人達のイベントと化している。それか子供達のイベントだろうか。海外のように家族で…といったイベントではないのは確かだ。

 街に出ると雰囲気のあるイルミネーション。テレビをつけても恋人達のデートスポットの紹介ばかりしている。この時期は独り身にとって、かなり酷な時だった。

 彼氏と別れたのは半年前。夏の時は毎日が辛かったが、さすがに今では思い出すことは無くなってきている。

 それでも恋人達のイベントとなると話は別だ。半年前のことが蘇り、辛くなっていた。だから無予定にせず、予定を入れて忙しくしていたのだ。

 黒崎君も独りでいるのが辛くなって、私に連絡してきたのだろうか?

 響歌はそんなことを思いながら横目で運転席を見た。そこには黒崎がハンドルを握っている。その横顔を見ても、彼の本心はまったくわからなかった。

 結局、この日も響歌が負けてしまった。柏原に入ったところで駅まででいいと言ったのに、黒崎はそれを受け入れなかった。彼は最後まで送る気満々だった。

 それでも一旦、少し用事があるということで彼の職場の系列店に寄ったが、駅は素通りだった。そのまま田舎道を走っている。高速を使うと半時間短縮できるが、彼の頭にはその選択肢すら無かった。のんびりとドライブを楽しむつもりらしい。

 黒崎とは以前もこうして何度か送ってもらっていた。それでもその時は今とは逆で、都会から地元に向かって送ってくれていた。真夜中に出発して早朝に着くといった時間帯だったので、彼が睡魔との戦いに突入したことも少なくない。何度かセンターラインからはみ出してハラハラしたこともある。それでもその時は響歌もほとんどペーパードライバーだったので、ハラハラしながらも運転を交代することは無かったが、運転に慣れてきた今なら即交代していただろう。

 さすがに眠気に耐えられなくなり、柏原にある彼の家で仮眠をとってから響歌の実家に向かったこともあった。その時、黒崎には彼女がいたので、早朝に彼の家に行って眠るのはいかがなものかと、響歌の方は実は悩んでいたのだが。

 高校の頃はあんなにも黒崎君と外でも会いたいと思っていたのに、卒業してからそれがこんなに容易くなったなんて。あの時の自分が知ったら、驚きのあまり卒倒するかもしれないな。

 運転している黒崎は、話しながらも運転中なので真剣な目をしている。そんな彼の横顔はとてもカッコよかった。しばらく見ておきたい気もしてしまう。

 そういえばムッチーに見せてもらった4組の卒業文集の中のランキングに『卒業後にカッコよくなりそうな人』があったけど、そこで黒崎君が1位になっていたのよね。

 黒崎君の顔立ちは整っているので納得はできるけど、それでも私ってば、『私が4組だったら、絶対木原君に入れるのに!』って、悔しがっていたのよ。

 もしかしてその言葉って、訂正するべきなのかしらね?

 まぁ、高校の時だし、そのままでいいか。

 木原君だってカッコよくなっているかもしれないし、あの時は本気でそう思っていたもの。高校3年の後半は、完全に黒崎君よりも木原君を推していたしね。

「そういえば高校の…1年の時だったかな、校外学習で科学館に行ったでしょ」

 高校の時のことを思い出していると、黒崎の口から高校という言葉が出てきて響歌は少し驚いた。

「あっ、そうだったよね。科学館なら1年の時で合っていると思うよ」

 その科学館は、響歌が住んでいるところから電車で5分くらいの場所にある。あの時は遠いと感じていたが、今はこうなのでなんだか不思議な気がした。

「その時に、オレ達男子がエレベーターに乗ったら、凄く臭かったんだよ。どうやら小森先生がその前に乗っていたらしくてさ」

 …は?

「その臭いが強烈過ぎて、降りた後も残っていたみたいなんだ」

 確かに小森の臭いは、残り香があるくらい強烈だったけどね。

 それでもわざわざイブの日に出す話題ですか!

「そんなことがあったんだ。でも、黒崎君は違うクラスだったから、そんな時だけでしか体験しなくて良かったじゃない。私なんて2年間あの臭いに耐えていたんだからね」

 3年間体験しなくて済んだが、2年だけでも辛かった。それくらい、あの臭いは強烈だった。

「そうなんだよなぁ、響歌ちゃん達はずっとあの臭いに悩まされていたんだよな。でも、2年間だけで済んで良かったじゃない。5組はあのまま3年間いくだろうと思っていたもん」

「教員の移動制度があって本当に良かったわよ。あれが無ければ、絶対に3年間同じ担任だったもの」

 2年になって担任が小森とわかった時、あの臭いにまた2年間耐えなければいけないのかとうんざりしていた。

 それなのに3年になる前、小森が移動するとわかったのだ。あの時の喜びは計り知れないものがあった。みんなで拍手喝采したものである。

 あの喜びは、他クラスだった黒崎君には想像もできないんだろうなぁ。ってか、本当になんで私達は、イブに小森の話題をしているのよ!

 それでも黒崎は小森で引っ張ろうとは思わなかったようだ。フと思い出しただけなのだろう、すぐに違う話題を出す。

「そうそう、同窓会の後にカラオケをしたでしょ。その後に忘年会が続いたんだよ。その後、大抵カラオケになってさぁ、さすがに飽きてきたんだよな」

「それは仕方がないでしょ。飲み会の後はカラオケって、定番中の定番だもの。しかも今なんて忘年会の時期まっただ中。その後は新年会だって控えているしね。きっとこの後も続々あるよ」

「そうなんだろうなぁ、社長もそんなことを言っていたもの。あっ、社長といえば、昨日クリスマスケーキをもらったんだ」

「へぇ、いい社長じゃない。この車ももらったんでしょ。それに加えてクリスマスケーキもだなんて」

 そんなことはなかなか無いと思う。

「そうなんだけど、それってホールケーキだったんだよ。そりゃ、甘い者は好きだけど、さすがに半分しか食べられないって」

「半分って…そんなに食べたら御飯が食べられなかったでしょ」

「だからそれが御飯代わり」

「………」

 だからこんなに細いのよっ!

 こんな感じで色々話しながら送ってもらった。それでもさすがに家までではなく、約束場所から近い繁華街で車を停めた。そうして休憩がてらコーヒーチェーン店に行ってから黒崎と別れた。もちろんそこの代金は、お礼として響歌が支払った。
 
 世間話はしていたが、今日は黒崎の口から同窓会の時のような言葉は出てこなかった。

 やはりあの『つき合うか』とか『つき合うことになった』とみんなの前で言ったのは、その場を盛り上げる為だったのだろう。この日の黒崎は、同窓会以前のような彼だったのだから。

 響歌はそれに安堵して、次の目的の場へと向かったのだった。
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