ピースな私と嘘つきなヒツジ

エピローグ

「ママー! 澪、お姫様みたい?」

澪がくるりと回るたび、純白のドレスの裾がふわりと舞い上がった。
鏡の中の小さな姿は、まるで物語から抜け出したお姫様のようだ。

「うん、とっても可愛いお姫様みたい。」

千夏が微笑むと、澪の頬がぱっと輝く。
控え室の窓から差し込む秋の光が、二人を柔らかく包み込んでいた。
外では、紅葉した木々の葉が風に乗り、静かに舞い落ちていく。

「準備できたー?」

ドアの向こうから、春海の弾む声が聞こえた。

「はーみちゃーん!」

慣れないドレスに足元を取られながらも、澪は笑顔で駆け寄る。
春海はその姿を見た瞬間、目を丸くして叫んだ。

「きゃー! なんてかわいいの! 私の天使!」

笑い声が弾け、柔らかく空気が揺れる。
その光景を見つめながら、千夏は胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じていた。

森の中に佇むチャペルは、木々のざわめきとともに息づいていた。
大きなガラス窓から差し込む光が、祭壇の白をきらめかせる。
木漏れ日が揺れ、まるで祝福するかのように新しい家族を照らしていた。

「あーあ、俺も先輩と結婚式やりたかった……。」

参列席の端で、品川が小さく呟いた。
けれど、その表情はどこか穏やかで、悔しさよりも温かな笑みが浮かんでいた。

祭壇の前では、凪がまっすぐに千夏を見つめている。
澪は緊張した面持ちで、ふたりの間に挟まれて立っていた。
千夏は澪の小さな手を握りながら、ふと凪と視線を交わす。
その瞬間、すべての時が静かにひとつにつながった気がした。

涙で滲む視界の中、凪が小さく笑った。

鐘の音が高らかに響いた。
澪が驚いたように顔を上げ、嬉しそうに笑う。
その笑顔が光を反射して、チャペルいっぱいに広がった。

秋の風がガラス窓を通り抜け、木々を揺らす。
三人の未来を祝福するように、黄金色の葉が舞い落ちていく。

――それはまるで、長い物語の終わりと、新しい始まりを告げる光のようだった。
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