【完全版】雇われ姫は、総長様の手によって甘やかされる。
さっきまで100人近くいた倉庫に今は怜央と私の2人きりだ。
「怪我してないか?」
怜央の熱い指先が私の頬に優しく触れる。
「してないよ。怜央と闇狼の皆が護ってくれたから」
「姫を失った香坂は狂猫から手を引くだろう」
「……うん」
「今まで何度も危ない目に合わせて悪かったな」
怜央の口にする言葉がなんだか別れの挨拶みたいで胸がチクリと痛む。
櫻子さんの手術はまだ終わっていないけれど、狂猫が解散したのなら私の役目も今日で終わりなのかもしれない。
これは悲しいことじゃない。むしろ、喜ぶべきことだ。
それなのに上手く笑えない。
「でも、姫になってから今日まで私は傷ひとつつけられなかったよ。水の音が聴こえたのも結局、あの夜だけだったし、心に傷も負ってない。なんでだかわかる?」
私の言葉に怜央が黙り込む。
「そばに最強の総長様がいたからだよ」
私がそう口にすると怜央が「最強の総長様か……」と鼻で笑った。
「じゃあ、その総長様が聞くけど、俺がいつ櫻子を好きだって言ったんだよ」
私にそっと触れていた怜央の手が、笑うことも泣くこともできない私の顔をぎゅっとつまんだ。
「…………ふへぇ?」
これまでの湿っぽい雰囲気が怜央のふざけた行動によって一変する。