主役になれないお姫さま
ウーー ウーー
マンションの外にパトカーが到着した様だ。

「何度も言うが、君に対して取引先の社長の娘以外の感情はない。勝手なことをしないでくれ!!」

2人がどう言う関係なのか分からないが、少なくとも過去に面識があるのはわかる。
そして、美弥子さんが一方的に想いを寄せているということも…。
逆に一真さんからは嫌悪しか感じられない。

 一真さんを信じて良かった。

彼女は『妻』と名乗ったが、やはり理由がある様に思えた。

警察官が2名到着すると、一真さんが事情を説明し美弥子さんは連れて行かれた。
そこから程なくして副社長が到着したのでオートロックを開錠する。

「一真、三浦さん!大丈夫かっ!?」

よほど急いできたんだろう。
息を切らせながら名前を呼ぶ。

「あぁ、大丈夫だ。」

副社長の顔を見るなり一真さんの緊張が解ける。
それだけの信頼関係があるのだと分かる。

「篠宮社長には俺から連絡をしておいた。まぁ、直接、警察からも連絡があると思うが…。」

「助かった。ありがとう。」

先ほど美弥子さんに出そうと途中になっていたコーヒーカップとさらにもう一つ取り出し、二人に暖かい飲み物を出した。

「…あのぉ。先ほど一真さんの奥様だと言っていた美弥子さんは一体どなたなのでしょう??」

二人は一度目を合わせアイコンタクトを取ると一真さんが話を始めた。

「彼女は以前、俺が営業のアドバイザーで入っていた会社の社長の娘さんだ。何度かその会社で顔を合わせたことがあったんあが…。俺に一目惚れをしたと言っていた。彼女は思い込みが激しくストーカー気質でね。たまたま会社で使用した印鑑を持ち出して勝手に婚姻届を提出したんだ…。」

「それで勝手に奥さんを名乗っていたの??」

「そういう事だろう…。彼女の父である篠宮社長に事情を説明すると、スキャンダルは避けたいと言われて単純に離婚の手続きを取った。もともと結婚なんて興味なかったから、バツがついたところで何も気にもならなかった。」

『はぁーー…』とため息を付きながら一真さんは話を続ける。

「離婚手続き後も自宅に張り付いてたり付きまといが酷くて、篠宮社長に今後俺の側に近づけないって一筆書かせていたんだ。その後、それまで住んでいたマンションを引き払って、日本を離れ半年旅に出たからもう落ち着いただろう。と帰国したんだ。俺のマンションには来た形跡がなかったから油断していた。まさか詩乃の家に来るとは…。」

私と出会う前にそんな体験をしていたなんて想像もできなかった。

「二人とも、明日は会社来なくていいよ。どうせ警察に事情聴取で呼ばれるだろうし。」

コーヒーに口をつけ副社長が言った。

副社長が話した通り、翌日、警察に呼ばれ昨日の詳細を話した。
その後、裁判が行われ正式な接近禁止命令が出されたそうだ。
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