期限付きの政略結婚 〜過保護な副社長とかりそめ妻のすれ違い恋愛事情〜
私が生まれ育った倉橋家は、鉄鋼関連の専門商社『倉橋商事』の創業者一族だ。

昭和初期から続く歴史のある会社で、私が住んでいる令和の風景から浮いただだっ広い土地と家屋は、亡くなった祖父が当時目が飛び出るほどの金額で購入したという。

けれど父が社長となっている現在、競合他社に押されて経営が傾きつつあるらしい。

なんとか倉橋商事を盛り返すために、私はいずれ父の決めた相手と結婚するようにと言われている。

私は大学を卒業して三年目の二十五歳。そろそろ縁談が持ち上がるだろう。

その相手が斗真さんだったらと淡い希望を持っていたことはあるけど、それは七年前にあえなく打ち砕かれた。

あの日の光景を思い出して、ふっと自嘲が漏れる。

馬鹿だな、私。

とっくに失恋しているのに、こんなふうにメイクに勤しんだりして。

斗真さんには私なんかよりずっと綺麗で大人っぽい素敵な『彼女』がいる。

その人とずっと一緒にいると誓い合っているんだから、私に入り込む隙なんかない。

そろそろ彼女との結婚話が出ているかもしれないし……

髪の毛を整えていた手がピタッと止まる。

もしかしたら、結婚が決まってその報告に来るということなのかな。

胸が不穏に騒ぎだし、慌てて大きく深呼吸をする。

落ち着こう。お父さんもお母さんもそんなこと一言も言っていなかったじゃない。

それにもし斗真さんが結婚するとしても、私は笑って祝福しなければいけない。

いつか来るってわかっていたことなんだから、彼の幸せを喜ばなきゃ。

自分にぶつぶつと言い聞かせていたら、ドアの向こうからノックの音が聞こえて心臓がギクリと跳ねた。

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