君が幸せだったらそれでいい。

私の好きな人





朝の8時ぴったり。秋独特の暖かい日差しが、私の背中を照らす。

酒々井高校、2-A組の教室前。


息を整えながら、前髪を手で整えて、スカートの裾をなでる。



「よしっ」



そう呟くと、私_香坂 優亜(こうさかゆうあ)は勢いよくドアを開けた。



「おはよー!宿題終わらなかったんだけど誰か見せて―!」

「あ、優亜おはよう。私の見る?」

「またやってこなかったの?しょうがないなぁ」



教室に入った瞬間、私は友達に囲まれる。



「それでねー、私今日社会あると思わなくて、持ってきてないんだけど!」

「あ、私、隣のクラスから借りてくるから、優亜これ使っていいよ?」

「え、いいのー?ありがと。助かったー!」



宿題をしていないと言えば、宿題を。教科書を忘れたと言えば、教科書を。

グループ分けの時は、私と組みたい人が多すぎて、なかなか決まらなかったり。


私は……このクラスの、女王様だ。



親ゆずりの容姿と、自然と身につけたコミュニケーション能力。

私は高校1年生の時から、常にトップに立ってきた。

そして、高校2年生である今も、上手くクラスをまとめている。



私に敵う者は、いないのだ。



「ねぇねぇっ、伊月(いつき)くんまだ来てないの?」


さっき借りたばっかりの宿題を、一生懸命写していたら。

なぜか笑っている沙耶(さや)に話しかけられた。



「えー、なんでここで伊月が出てくるの?」



そう言いながらも、私の頬はだんだん緩んでくる。



「だって優亜って、伊月くんのこと大好きじゃん!」

「きゃー!言わないでー!」



にやにやと笑っている沙耶の体を、バシバシ叩く。



「ごめんごめん。でも、伊月くんって絶対優亜のこと好きだよ!」

「え、そうかな?」



なーんてね。こんな謙虚なのは私に似合わない。

私の中学までの性格は、強気で負けず嫌いの女王様。


私側についてくれる人もいたけど、反感を買うことも多かった。



「だって優亜、可愛いし優しいじゃん。クラスの男子、皆狙ってるよ」

「え、でも私告白されたことないんだけど」

「それは優亜に遠慮してるんだよー。優亜の横、いっつも伊月くんだし」



モテる女はずるいわー、と呟いた沙耶を、こっそり笑う。


あのね、私は皆に好かれやすそうな性格を追求したんだよ。中学より、もっといい学校生活を送るために。

人には優しく、笑顔で。嫌われてる子にも優しく、をモットーに。

きっと、前の私を知っている人が見たら、びっくりするよ。


だから、中学の頃の私を知らない人が多い、この酒々井高校に進んだんだ。


でも、僅かだけど同中出身の子はいる。

その1人が、さっき沙耶が言ってた"伊月"。



「いいなー、隣の家に幼馴染なんて。私なんか近くに同級生すらいないんだけど」


恨めしそうな目で私を見てくる沙耶。


「しょうがないじゃん。私だってたまたまだよ?最近、伊月ったら部活ばっかで全然話してくれないし……」

「あー冷め期ってこと?」

「なんか違くない?」


今、私達の話題である、鳴瀬 伊月(なるせいつき)は、実は私の幼馴染で、……初恋の人。

ミルクブラウンのふわふわの髪、笑うと細くなる目。


おまけに家は隣で、小さい頃からずっと一緒にいた男の子。


まあ……好きになっちゃうのもしょうがないと思うの。




「俺がなんだって?」



後ろから、透明感のある低い声がした。

光の速さで振り向く。



「い、伊月……!」

「なんか、俺が部活でどうたら言ってたけど。」


制服の第二ボタンまで開けて、凄く大人っぽい雰囲気。

沙耶は空気をよんで、自分の席へ戻っていった。



「あれっ?伊月、テニス部の朝練じゃなかったの?」


伊月はテニス部のレギュラーなんだ。マネージャーになりたかったんだけど、テニス部はマネを募集してなくて。

私は代わりに、テニスコートの近くで練習をしている、サッカー部のマネをしてる。


サッカー部といえば……。


私の質問に、答えようとする伊月の後ろから、ヒョコっと頭が飛び出した。



「今日は早く終わったんだよー?ていうか、なんで優亜、今日朝練来なかったの?」



口をとがらせながら、そう言ったのは、サッカー部所属の倉木 祈里(くらきいのり)

女の子のような名前をしているが、部で一番やんちゃなので、問題児扱いされている。

しかも、私と伊月の幼馴染でもある。


彼の説明はここでおいといて……。



「今日って私が当番なの?丹野さんじゃなかった?」



朝練のマネージャーは、当番制で、今日はもう一人のマネ、丹野 美羽(たんのみう)ちゃんのはずじゃ……。



「え?丹野なの?僕、すっかり優亜だと思ってたんだけど。」

「だって私、昨日朝練にいたじゃん。だから次は、美羽ちゃんだと思う」


まじかー、と祈里は頭をかかえながら、私に囁く。


「丹野ってさ、時々こういうところあるから、ちょっとめんどくさいよな」

「……まぁ、美羽ちゃんって練習休みがちだもんね。でも、資料まとめとか、美羽ちゃん得意じゃん?」


こういう風にカバーしてるけど、私は美羽ちゃんが苦手。というか嫌いの部類に入る。

だって、たいして可愛くない地味子のくせに、部繋がりで伊月と馴れ馴れしく話すんだもん。

そのくせ、私にはずっとだんまりだし。

それで、今日も練習休んだの? それって、もう私に嫌われにいってるじゃん。


私達の会話が聞こえたのか、伊月が口をはさむ。


「まぁまぁそんなこと、言うなよ。彼女、結構優しいじゃん。祈里のことだから、悪口じゃないと思うけどさー」

「あ、分かった?丹野が休むとさ、色々と部員で手分けしてやらないといけないからさ。せめて連絡ぐらい、くれたっていいよなっていう、僕の願望」


心がズキッと痛んだ。

なんで、そんなに迷惑をかけてる子のことを、庇うの?同級生だから……?


あんな子のどこが良いのよ……。


文句を言ってやろうにも、今日は休みなのか、席が空っぽだ。



「お前ら早く座れー。HR始めるぞー」



丁度良いことに、担任がやってきて、美羽ちゃんのことは有耶無耶になった。








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