死神キューピッド
ある日のコンビニ
「っす」


顔見知りのバイト仲間に軽く挨拶して、更衣室……と呼ぶにはあまりに雑多な和室に向かう。


使い古されたロッカーに荷物を投げ入れて、着慣れたストライプのユニフォームに腕を通す。


鼻をかすめる独特の匂いに、「あー、そうそう、これからコンビニバイトだ」と嗅覚が先に認知する。


なんつうか、どのバイト先にも特有の匂いがあるよな。


タイムカードを押したところで、背中から店長のだみ声が響く。


「朝倉くん、明日の早朝って入れる?」


ころんとした体を丸めてPCをのぞく店長は、ストライプ模様のだるまに見える。


「あ、はい、いいっすよ」


「悪いね、夜も居酒屋でやってるんだよね」


「いや、金ないんで」


こんなバイトいつ辞めてもいいんだけど、辞めるタイミングを失ったまま、もう5年。


やめるって切り出すのも面倒だし、慢性的な人手不足だし。


ぶっちゃけ夜やってる飲食の方がずっと金もたまるし、そこそこうまい飯も出る。


けど、まあ、コンビニなんて毎日が同じことの繰り返しで、とにかく楽。


たまに浮浪者すれすれのじーさんが新聞だけ買いに来たりして、迷惑だったりするけど。


そういえば、今週はあの爺さん、来てないな。


どっかで野垂れ死にでもしたのかもな。


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