吃音少女は恋をする
雨が降ってきた。

結構強かったけど、私に味方してくれたんだと思う。

泣いてる私を隠してくれる、ベールのカーテンを。

「翠くんっ」

前を歩く翠くんの手を掴む。

服を掴むとかのほうが可愛かったのかもしれない。

でも私にはそんなことできないから。

「どうした?」

翠くんは優しいから。

優しすぎて、私にはもったいないけど。

私は翠くんが欲しいんだ。

「私、澄晴くんのこと、好きじゃないよ」

「……」

「私には、翠くんしかいないんだよっ……」

今の私にはこれが精一杯の告白。

「! なぁ、千陽。お前、喋ってる……」

「え……?」

ホントだ。

スラスラ喋ってた。

言葉が出てこなくてむず痒くもなかった。

それは、翠くんの、チカラ……?

「翠くんっ」

がばっと抱きついた私には、もうちょっと可愛さが欲しかったけど。

翠くんはちゃんと、受け止めてくれた。

「翠くん、ありがとう」

「可愛すぎる……」

え?

何言ってるの、翠くん。

そう言おうとしたら。
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