ソルティキャップ
「とどっちゃんでも負けちゃうの? 嘘でしょ。もう終わったじゃん!」
『とどっちゃん』というのは東堂の愛称である。少し丸くて優しい顔をした柔らかいルックスも高い人気を誇っている。彼女が着ているユニフォームには『TODO』と書かれているから、彼女も『とどっちゃん』ファンの一人なのだろう。
「まだ1回表です。諦めるのは早いですよ」
俺はそう言って頭を抱える彼女の隣に座った。
「とどっちゃんが押し出しなんてもうダメですよ! あー今日は負けましたね」
ファンの勘は意外と当たるもので、1回表に東堂が崩れ9失点をし、その点差が縮まることもなく試合は終わった。
「今日の試合はなーんも面白くありませんでした」
あんなに熱血に応援していたのに、彼女は拗ねて頬を膨らませた。
「でも、真結さん、最後まですごく楽しそうでしたよね?」
俺がニヤリと笑うと、
「もう! 陽介さんの意地悪!!」
と俺の左腕をポコポコと殴りだした。そのこぶしは小さくて白くて骨ばっていて、ほんのり温かかった。
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