春風、漫ろに舞う
「わ〜巡さん、素敵です!」


「あ、ありがとう…。」



鏡の前に映るわたしは、別人で。
メイクもヘアセットも提携してるプロの人がしてくれた事もあって、自分が自分じゃないみたいだ。
三橋さんが作った衣装にもあってる。



「そろそろ始まりそうですね…!」



そわそわしている様子の三橋さん。
会場になってるホールにも、続々と人が集まってきてるようで。
ざわざわとした声が聞こえ始めている。


他のモデルさんたちの準備も終盤にかかってるのか、瑛も慌ただしそうにしているのが視界の隅に見えた。



「一緒に、写真撮ってもいいですか!」


「あ、ええ…いいですよ。」


「ほんと巡さんって綺麗ですよね…!
もしかして、本職モデルとか?」


「いやいや、やめてください。
そんな事ないんで…。
ちょっと髪染めてる、ただの高校生です。」


「え!高校生!?
英華ちゃんと仲良さそうにしてるから、何となくそんな気はしたけど本当に!?」


「はい。」


「ええ…それにしては、大人びてる…。
いいなぁ…。
私なんて、このお下げ髪のメガネ芋女ですよ…。」



落ち込んだ様子で、自分の三つ編みを引っ張っているから。
思わず、その手を掴んだ。



「せっかく傷んでない綺麗な髪なんだから、傷んだら勿体ないですよ。」


「……っ、あ…そう、ですよね…!」


「わたしなんて染めまくりだから、美容院で高いお金払ってケアしてやっとこれ。
三橋さんみたいな髪、憧れるな。
…ほら、笑って。写真撮るよ。」



わたしのスマホを構えて、2人で自撮りをして彼女のスマホに送ってあげる。


いつもならこんなことしないのに。
煌月の巡のメンタルで、綺麗な服とメイクという武装をしていたからなのか。
はたまた、三橋さんが昔のわたしに似て見えたからなのか。

理由は分からないけど、たまにはこういうのも良いのかなって思えた。


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