モフぴよ精霊と領地でのんびり暮らすので、嫌われ公爵令嬢は冷徹王太子と婚約破棄したい
警戒するとき

 緑の森の中の小さな小屋の裏手。

『あとで迎えに来るから。ここから絶対に出たらだめよ』

 ロゼ・マイネはいつになく真剣な表情でそう言うと、大きな薪箱の蓋を閉めた。

 それから立ち上がって灰色のローブを頭からかぶる。

 数歩進んでから振り返り、もう一度薪箱を見る。そして意を決したような表情で走り出した。

 まだ昼だというのに森の中にはあまり光が届かず薄暗い。盛り上がる木の根にときどき足を取られながらも、立ち止まらずに必死に走る。

 息が苦しく喉が熱く焼けるように痛むけれど、走るのをやめるわけにいかない。

 もしやめたらそこですべてが終わってしまうのだから。

 自分の帰りを待っている人がいる。大切なその人のためにももっとがんばらなくては。

 あと少し、もう少し、そう思うのに森を抜けられる気配はない。


 そのとき、近づく足音が聞こえてきた――。
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