モフぴよ精霊と領地でのんびり暮らすので、嫌われ公爵令嬢は冷徹王太子と婚約破棄したい
「大きな声を出してごめん。驚いてしまって」
「大丈夫。でもそんなに驚くということはもしかして」

 カロリーネの目が真剣になる。

「うん。私の精霊も朝からぐったりしているの。カロリーネのウンディーネはどうなの?」

 ベアトリスは今度は声を潜める。

「この騒ぎを聞いて呼び出してみたんだけど、いつもと変わらないわ。生徒たちの間でも、異変がある者と問題ない者で分かれているみたい」
「そうなの……。なにか共通点があるのかしら」
「わからない。全員が正直に話しているとは思えないし」
「それはそうね」

 精霊は自身の魔力を高め守る存在。もし異変があったとしても、本来軽々しく公言するものではない。まだ一人前ではない学生ということで、つい漏らしてしまった者がいて、それにつられた者もいるのだろう。

「学院長が精霊に詳しいそうだから相談しようと思って早めに来たんだけど、不在だそうなの」
「不在? それはこの騒ぎと関係しているのかしら」

 ベアトリスとカロリーネがこそこそ話していたそのとき、ふいに背後に人の気配を感じた。

 ふたりで同時に振り返ると、見知った人物が佇んでいてベアトリスたちを見下ろしていた。

「あなたはたしか……」

 ときどきユリアンと一緒にいるところを見かけた覚えがある。

「バッハ伯爵令息様」

 カロリーネがそうつぶやき、次の瞬間はっとしたように我に返り頭を下げる。

「クロイツァー公爵令嬢、シェルマン男爵令嬢。応接室までご足労願います」

 丁寧な口調だが有無を言わせない迫力を感じた。ベアトリスはカロリーネと顔を合わせうなずき合うと席を立った。

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