モフぴよ精霊と領地でのんびり暮らすので、嫌われ公爵令嬢は冷徹王太子と婚約破棄したい
 その後、念のためレネに確かめると、彼女は激しく震えだし、絶対に帰りたくないと言った。

『ロゼ。私を捨てないで。ずっとそばにいて』
『で、でも……』
『帰ったら、私死んじゃうよ』

 その言葉に衝撃を受けた。同時に、出会った頃のレネが栄養失調で言葉もろくに話せなかったのを思い出したのだ。

 おそらく神官たちはレネを虐待していた。『聖女様を捜しています』と言ったが、あれは嘘かもしれない。だって本当に聖女だったら虐げるはずがない。

 もしレネが真実の聖女だとしても、死ぬかもしれないところに返すわけにいかない。

 その決断は間違っていなかった。こんな残酷な神官たちにレネを渡したら、大変なことになっていたはずだから。

 だけど、まさか自分が死ぬことになるなんて思わなかった。

 ロゼは乾いた笑いを浮かべた。

(レネ……今頃どうしているのかしら)

 神官たちを避けて隠れていた森の小屋の裏手で別れたとき、迎えに来るまで薪箱から出てはだめだと言ってしまった。

 言いつけを守って待っていたらどうしよう。ロゼが来ないと気づいて出ていてほしい。

 幸い神官たちは、薪箱の存在に気づいていないらしい。今ならどこか遠くに逃げられるはず。

 本当の妹のようにかわいがっていた幼いレネの身を案じている間にも、神官はなにか話している。やがて周囲が騒めき始め、神官たちがなにかを叫んでいるがもうよく聞こえなかった。
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