モフぴよ精霊と領地でのんびり暮らすので、嫌われ公爵令嬢は冷徹王太子と婚約破棄したい
(この子はとても頭がいいわ。計算も習ったら将来は商家で働けそうね!)

「ベアトリスさま、私は刺繍したの。見てください」

 八歳になるサラが生成りの布をベアトリスの前に広げた。布の真ん中にかわいらしい赤い花が咲いている。

「これはダリアの花ね。とっても綺麗に出来たのね。すごいわ」

 ベアトリスはサラににこりと微笑む。

(サラは仕立て屋で活躍出来そう)

 孤児院の子どもたちは、十六歳になったら独り立ちする決まりなので仕事を探す。

 だから小さなうちから自分の好きなことを見つけて、特技として伸ばしていくのは子どもたちのためになるのだ。

(前世の私は計算も読み書きも苦手だったから、仕事探しに苦労したんだよね)

 なかなか見つからずに焦っていたところ、どうにか宿屋の従業員として拾ってもらったが、特技の大切さは身に染みている。

「ベアトリスさまー」

 女の子たちと話していると、レオと剣の練習をしていた男の子たちが集まってきた。

 ベアトリスは笑顔で子どもたちを迎えて、彼らがいかに楽しく練習をしたのか、怒涛のおしゃべりを聞くことになった。

その頃にはユリアンの存在は頭から消えていて、思い出して青ざめた頃には、彼は立ち去った後だった。
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