魔法のいらないシンデレラ
「そしてこちらが、営業部からの出張申請書です」
「分かった。あとでサインしておく」

早瀬の言葉に、パソコンを操作したまま一生は答える。

いつものように、その日のホテルの報告を、総支配人室で聞いていた。

「はい。ですがこの一枚だけは、先に目を通して頂けますか?」
「ん?なんだ」

手を止めて早瀬から受け取った書類に目を通す。

「えっ!この二人が?」

申請書にあった名前は、小山 奈々と早乙女 瑠璃。
出張先は京都だった。

「どういうことだ?この二人が、何しに京都へ?」
「老舗のガラス工房を訪れる、とあります」
「ガラス工房?」
「はい。おそらく、花火大会の屋台で扱うアクセサリーの件で」
「そ、その交渉をやらせるのか?瑠璃さんに?」
「そのようです」

一生は言葉を続けようと口を開いたが、佐知のセリフを思い出し、諦めて天井を仰いだ。

(口出しは出来ない。ただ、心配だ…)

ふうと小さくため息をついた。
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