魔法のいらないシンデレラ
「えー、なになに。ご丁寧なメールをありがとうございました。拝見しましたが、こちらは昔ながらの小さな古い工房です。そちら様のような、都会の高級なホテルにはおよそ似つかわしくありません。私どものやり方で、コツコツと丹精込めて作っておりまして、このやり方を変えるつもりもございません…」
「ほー、つまり門前払いって感じか?」
「あるよなー、俺らにもこういうこと」

うんうんと、他の社員も頷く。

「きっとこの職人さんは、今まで色々なところから声をかけられたんだろうな。デパートとか、通販サイトとか」
「ああ。その度にこうやって断ってきたんだろう」
「時代の流れには飲まれず、伝統を守るって気概なんだろうな」

瑠璃は、皆の意見にじっと耳を傾けていた。

「で、どうする?瑠璃ちゃん。諦めて他を当たる?」

加藤の言葉に、瑠璃は首を振る。

「いえ、まだ諦めきれません。私、この工房に行ってみます」

おお?!と皆がどよめく。

「瑠璃ちゃん、意外にガッツあるね」
「京都だぜ?本当に行くの?」
「はい。行ってもよろしいでしょうか?」

瑠璃は青木に顔を向ける。

うーん…と少し目をつぶってから、青木はニッと笑った。

「うん、行っておいで。瑠璃ちゃんに任せる」
「はい!ありがとうございます」

立ち上がって頭を下げる瑠璃に、山下が声をかける。

「瑠璃ちゃん、俺達営業マンが1つアドバイスするとしたら…。こういう職人さんほど、本物だぜ」

そう言って、瑠璃にウインクしてみせた。
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