魔法のいらないシンデレラ
「清河さん、このお部屋はどうですか?もっと広いお部屋の方がいいかしら?」

瑠璃と奈々がデラックスダブルの部屋に案内すると、清河は珍しそうに部屋を見渡した。

「いや、充分や。これでも広すぎるくらいや。ええの?こんな豪華な部屋使わせてもろても」
「もちろん!夕食も、お好きなレストランで召し上がってくださいね。あとで予約を入れておきます」

まずはごゆっくりお茶でもどうぞ、と瑠璃がソファを勧める。

清河は、おおきに、と言ってお茶を飲みながら、窓からの景色に目をやった。

「すごいなあ、これが東京か。ばあさんにも見せてやりたかったわ」

奈々が、声のトーンを落として聞く。

「清河さん、今は一人暮らし?」
「ああ。3年前にばあさんに先立たれてな。子どもはおらんかったし」

瑠璃は、京都で訪れた小さなお店を思い出した。

80歳になると言っていた清河は、あそこに一人で暮らしているのだろう。

「わしも、ふと考えるんや。そろそろ店を畳もうかってな」
「えっ!」

瑠璃達は驚いて清河の顔を見つめる。

「跡継ぎもおらんし、弟子もおらん。今ある作品を売り切ったら、もう作ることはないわ」

(そんな…)

何かを言いたくても言葉に出来ず、瑠璃と奈々は、お茶を飲む清河のどこか寂しそうな横顔を黙って見ていた。
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