魔法のいらないシンデレラ
はい、と返事をしてドアを開けると、ホテルのスーツを着た女性がにこやかに立っていた。

「お疲れ様です。美容室の杉下と申します」
「あ、お疲れ様です。営業部の早乙女と申します」
「総支配人からご依頼を受けました。失礼しても?」
「は、はい。どうぞ」

総支配人が何の依頼を?と思いつつ、部屋に招き入れる。

杉下は、手にしていた大きなカバンを置くと、瑠璃に、鏡の前に座るように言った。

ますます不思議に思いながらも、言われた通りにする。

すると、瑠璃の髪をヘアクリップで留めてから、コットンに液を染み込ませ瑠璃のメイクを落としていく。

そして今度は、化粧水や乳液などをたっぷり顔に染み込ませていった。

(ヘアメイクさんなのね)

慣れた手つきで、手早く瑠璃の顔に下地を塗り、ファンデーションを重ねていく。

「お肌、とっても白くてきれいですねー」

手を動かしながら、感心したように杉下は言う。

え、いえいえ、と瑠璃が手を振ると、
「職業柄、色んな人のメイクをしてきましたけど、こんなに化粧ノリが良くてメイクしがいのある方は初めて。私、張り切っちゃいます」
とお茶目に笑った。
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