魔法のいらないシンデレラ
一生は、何も言葉が出てこなかった。

いつも穏やかで、冷静で、頼りきっていた早瀬に、こんなふうに感情的になられたことなど今までなかったからだ。

しばらくの沈黙のあと、早瀬はゆっくりと口を開いた。

「総支配人。私は勝手ながら、総支配人とは一心同体の気持ちでおりました。特にこの2年はとても大事な時期だと。決して気を緩めてはいけないと。日々、総支配人と同じ気持ちを持ち続けてお支えしてきたつもりです。自分のプライベートなど、全く頭にありませんでした」
「早瀬、だめだ。そのままではお前が潰れてしまう。お前が幸せにならなければ、俺だって幸せになれるはずがない」

ようやく一生が言葉を挟んだが、早瀬は首を振った。

「私は逆の気持ちです」

そして、少し考えてからまた視線を上げた。
< 196 / 232 >

この作品をシェア

pagetop