魔法のいらないシンデレラ
「総支配人、以前こうおっしゃいましたよね。ここで働くスタッフを幸せにすることが自分の使命だと。その大きな責任の前には自分の気持ちなどちっぽけなものに過ぎない…と」

麗華との結婚を考えた時のことだろう。

「ああ、確かに言った」
「では私の立場から言わせて頂きます。総支配人の犠牲の上に成り立つ我々スタッフの幸せなどありません」

きっぱりと言い切る早瀬に、一生はただ呆然とする。

やがて早瀬はふっと表情を緩めて、一生さんと呼びかけた。

初めて会った頃、早瀬は時々一生のことを名前で呼ぶことがあった。

だが総支配人に就任してからは、全くない。

久しぶりに名前で呼ばれ、一生は懐かしさに胸が詰まる。

「まずはあなたが幸せになってください、一生さん。幸せになってこそ見えてくる景色があると思います。そしてその景色を知っている人が、より良い総支配人になると私は思います」

一生は、打ちひしがれたようにうつむいた。

(何も分かっていなかった。俺は…ただみんなを守りたくて、必死で)

だが、逆に一生は守られていたのだ。

早瀬に、周りのスタッフに。

(自分1人でやっている気になっていた。なんたる思い込み…なんたる独りよがり…)
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