霊感御曹司と結婚する方法
 また違う日、ちょうど会って話がしたいと思った頃に、兄が訪ねてきた。吉田から、兄の進退のことを聞いたからだ。

 病院の面会時間が終了する間際だった。

「怪我の具合はどうだ?」

「肋骨は意外と早くくっつく。足は手術したから、もう少しかかるが、松葉杖がつけるくらい回復したら退院らしい」

「そうか。大したことでなかったかはわからないが、とにかく良かった。だが、被害者の女性には、しばらくつらい思いをさせるだろう。……裁判は避けられないからな」

「吉田がいる。あいつは専門家だし、力になってくれる」

「そうだな。おまえもついているし、大丈夫だと信じたい」

「彼女は、一歌が逮捕されたことに責任を感じている。俺は、そのことを心配している」

「……それは、随分と申し訳なかった」

「一歌とは、離婚になるのか?」

「一歌が納得すればな。彼女とは、伯父のツテで結婚したから、離婚は中々一筋縄でいかないことになっている。だが、おまえには関係の無いことだ」

 兄は淡々と言った。

「……電話で、吉田から、兄さんの任期のことを聞いた。今の任期の限りというのは本当か?」

「ああ。おまえにはその話もある」

「一歌の起こした事件で、兄さんまで責任を取る必要があるのか?」

「随分と周りに迷惑をかけてしまっている。実は、一歌が絡んでいる騒動は、あれだけではない」

「何がある?」

「少し前に、本社で人事データの不正取引が発覚して、ある事業部長を刑事告訴するかどうかという話が出ていた」

 兄はこちらを向いた。

「おまえは、心当たりがあるんじゃないか? 人事のシステムを刷新する依頼を、遠城君にかけたんだろう?」

「ああ、そのことなら……」

 兄は俺の言葉を遮って言った。

「あれで、遠城君の仕込んだトラップにかかった社員がいたんだ。それが、例の事業部長だった」

「そうか……。そういうことになっていたのは知らない」

「不正の内容は単純なことだ。無断で入手したデータで金を得ていたというだけだ。その罪が重いか軽いかは知るところではない。

 問題は、その彼が一歌と不貞の関係にあったということだ。……いや、その言い方はおかしいな。

 問題は、一歌が逮捕された事件の詳細をまとめる中で、二人が不貞関係にあることを役員会に知られてしまったことだ。

 管理職級の社員と、役員の妻がそういう関係にあること自体が大きな問題だ。俺は自らの妻を御していないということを、問題視されたというわけだ」

 一歌とその社員は、出身大学の先輩後輩という間柄らしいが、会社の内部の情報を得る目的で、一歌は彼に目を付けたのだろう。もしくはその逆もしかりで、彼も一歌を利用していたはずだ。

 一歌は歳こそ中年の域に入っているが、あれはあれで、なかなかの美貌の持ち主で、また社交的な性格ではあるので、それに惹き寄せられる男はたくさんいる。
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