霊感御曹司と結婚する方法

スカウト!

 退職まで一週間を切ったある日、本社への出張を命じられた。

 人事本部長と面会をするようにということであった。どうせ、起こしたトラブルの顛末を説明しろというのだろう。しかし、なぜ本社の人事部にまで話をしなくてはいけないのか。すでに退職は決まっているし、退職理由は一身上の都合である。

 不審に思いながらも、遠く離れた本社まで出向いたわけだったが、行った先で言われたことは全く関係のないことだった。

 次の職場が決まっていないのなら、経理事務を探しているという、人事本部長の個人的な知り合いの会社に行かないかという打診であった。

 新規で立ち上げる会社だということらしい。本社近辺の地域である。

 正直いって、私となんの脈略もない話である。何か無理やりなこじつけができるというなら、私が経理関係の資格を持っているというくらいか。だが、かなり苦しい。

「あやしい話ではないよ」

 戸惑う私を見て、人事本部長は笑って言った。

「でも、私でなくてもいい話ではないでしょうか? しかも私は本社勤務の社員ではありません」

「……そうだね」

「高い出張旅費を出してもらってまで、お声がけいただけることとは思いません」

「そうだけど、まあ、性別とか年齢とか容姿とか学歴とか勤務の在籍期間とかそういうところを総合的に見て、先方がこれはと思って、うちの元社員というブランドも功を奏して、君に白羽の矢が当たったという次第だ」

 本部長は、急に意味不明なことを言った。口答えする私の相手が面倒だと思ったのかもしれない。それで、私も遠慮なく丁重に断った。縁もゆかりもない土地で就職する気はないと言って。

「まあ、そう、即決せずにだね……」

 せっかく遠くの本社まで出向いた上、相手方の面目もあるので、いちどその会社の面接に行くように強く勧められた。本部長の言うところだから、個人的なこととはいえ、これ以上この場で無理に断れるはずもなかった。

 相手方との待ち合わせに、本部長から聞いたのは、外資のホテルのロビーだった。

「面接のための待ち合わせが、ホテルのロビーですか?」

(もしかして、まさかのお見合いですか?)

 という、頭に浮かんだ疑念は黙っておいた。

「僕はそう聞いているのだもの。とにかく行ってみてよ。悪い話ではないよ」

 約束は翌日の正午という話だ。
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