一夜限りのお相手が溺愛先生へと変貌しました




「三年後でも良いですか?」
「三年!?って子供が三歳になる頃に挙げたいってこと?」
「はい」



想像していたよりも、もっと先の三年後に結婚式を挙げたいと申し出た。

それは子供が三歳になるのはもちろん、両親やお祝いにきてくれる友人、会社の同僚達も三年待たせる事になる。

そこまでして繭が三年後に挙げたいと願う理由は何なのか、驚きながらも冷静に問いかけた。



「繭さんの考えてること、教えてくれる?」



耳元でそう囁かれた繭は、自分の体を抱きしめる椿の腕に手を添えてゆっくりと瞼を閉じる。

そして幼少の記憶を呼び起こし、くすりと笑い声を漏らした。



「私の一番古い記憶が、三歳の時に家族で行った動物園なんです」
「古い記憶……」
「あの時は家族でよくお出かけしていて、お昼に買ってもらったホットドッグを食べようとしたら、飛んできたカラスに突然奪われて……」



話の途中で再び思い出し笑いする繭は、自分の古い記憶が三歳であると自ら証明していることになる。



「調べてみると人間は大体三、四歳の記憶は思い出す事が出来るらしくて、それより幼い時期は記憶が難しいみたいなんです」
「確かに、俺も思い出せる古い記憶は三歳のだな」
「なので、三歳になったこの子に、私達の結婚式の記憶が少しでも残ってくれたら良いなと思って……」



大きくなったお腹を優しく撫でて我が子への思いを語る繭は、すっかり母親のような温かい表情をしていた。

そして授かり婚だからこそできる、最愛の我が子に自分達の結婚式を見せてあげたいという願い。



< 127 / 139 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop