一夜限りのお相手が溺愛先生へと変貌しました




「そう考えてみて、三年後が良いかなって思ったんですけど、どうでしょうか……」
「…………。」



背後の椿から返答はなく無言が続き、静寂が居心地の悪さを感じさせてきた時。

椿の手のひらが繭のお腹に添えられて、我が子に届けるよう話し始める。



「……パパは大好きなママのウェディングドレス姿を早く見たかったんだけど、ママは君に結婚式を見せてあげたいんだって」
「へ?」
「だから三年、パパは我慢するから……家族三人で最高の結婚式にしような」
「つ、椿さん……」



思わず振り向こうとした繭より先に、体重をかけずに覆いかぶさってきた椿が顔を覗き込んできて、そのまま静かに唇を重ねる。

繭の全てを許して受け入れてくれた、優しいキスだった。



「……親達も早く挙げろと言ってきそうだけど、孫に夢中でしばらく俺達への関心は避けられるだろうから」
「っ……」
「繭さんの計画に、俺も賛成」
「あ、ありがとうございます……」



不意のキス直後だった繭は、驚きと恥ずかしさで言葉を詰まらせながらも、感謝の言葉だけはしっかり伝えられた。

すると、少し拗ねたように唇を尖らせて冗談混じりに椿が言う。



「俺の知らないところでそんな計画していたなんて」
「ご、ごめんなさい」
「謝らないで、俺も一緒に考えていきたいから」
「え?」
「この際、今夜は結婚式でやりたいこと語り尽くそう」



ワクワクと胸躍らせたような少年の表情をする椿がニコリと笑うと、再び繭の体を優しく抱き締める。

その声色は明るくすっかり目が冴えてしまった椿に対し、繭もつられて微笑んだ。



「もう一つあります、やりたいこと」
「お、早速。教えてほしい」
「ふふ、特別ですよ?」



月がどんどんと高いところに昇る中、睡眠時間を惜しんで楽しげに語り合う繭と椿の結婚式は、もうすぐ誕生する我が子が三歳になった頃に挙げる事が決定した。



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